ランダムなメモの文字起こし

録音テープ(あるいは動画)から音声を拾って文字に書き起こすことを「テープ起こし」という。今となっては誰もテープに録音していないのに、昔の名残でそう言う。インタビューした当事者なら臨場感も記憶もよみがえるので、少々聞きづらい録音箇所でも再現できる。しかし、その場に居合わせていない人がバイトでテープ起こしをすると、トンチンカンな話が出来上がりやすい。

さて、わがノートにメモを書いているのは、他の誰でもなく、自分自身である。メモには文としてまずまず完成しているものと、脈絡のないランダムな覚え書きとがある。大半は後者なので、まともな文章にするためには「(読みづらいメモの文字から)文字起こし」をすることになる。少し手がすいた今週、数年前のメモから文字起こしをしてみた。


📝 耳に残るのは好ましい話や音だけではない。いや、むしろ耳障りなことのほうが記憶として長く残る。耳障りは耳残り。

📝 嗅がされるのが匂い、嗅ぎたくなるのが香り。さて、においを「匂い」と書くか「臭い」と書くか。かおりを「香り」と書くか「かほり」と書くか。
「かほりは変でしょ?」 いや、そうでもない。小椋佳のあの名曲は「シクラメンのかほり」。

📝 午後七時四〇分の視線。♪ゆ、ゆ、夕焼け、今宵は赤い、と即興で口ずさむ。
夕焼けはいつも赤いとは限らない。都会の人工の光にけがされた紫っぽく
蒼ざめた夕暮れに出合うこともある。

📝 一方通行で使うのでないかぎり、階段は上がったら下りてこなければならない、あるいは下りたら上がってこなければならない。これを「階段の二重構造性」と勝手に呼んでいる。エッシャーの絵に現れる無限階段も、この「上がったら下りる、下りたら上がる」という構造を持つ。

📝 ノートの間から付箋紙がぽとり。BS放送を見ていた時のメモだ。インタビューに淡々と答えたイタリアの初老の職人のことばである。

「靴屋に仕立て屋にチーズ職人。別に難しいことをしているわけじゃないが、昔から引き継いでやっているのさ。」

これこそプロなんだなあと感じ入る。かつて職人と世襲は同義だったのだろう。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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