洋画の原題とその邦題

「ゴールデンウィーク」なる和製英語。類推の域を出ないが、このことばはぼくが気づく前から存在していたようである。むしろ、大型連休のほうが後々になって耳に入ってきたような気がする。そのゴールデンウィーク真っ只中である。毎年この時期はどこにも出掛けない。たいてい冬服から春夏服への衣替えをしているか室内の模様替えをしている。二日間そんなふうに過ごし、隙間に読書をしたりしていたが、退屈してきたので映画館に出掛けることにした。午前940分始まり、一日一回の上映のみなので、朝8時半に自宅を出た。

間奏曲はパリで

フランス映画『間奏曲はパリで』。ここで作品紹介するつもりはない。特に映画マニアでもないから俳優のことはよく知らない。仮に作品がハズレだったとしてもすでにシニア割引の特権を持つから、さほど後悔することはない。鑑賞しての印象は、後悔どころか、かなり満足して映画館を後にした。特にパリを舞台にした後半の1時間には見覚えのある光景が多く、懐かしく記憶を辿ることができた。

ところで、原題は”La Ritournelle“である。この単語はぼくの仏和辞典(白水社)には見当たらない。これに近い単語がイタリア語にあるのを思い出し、伊和辞典で調べてみたら“ritornèllo”だった。音楽では「リフレイン」という意味で使われる。この語が外来語としてフランスで使われるのだとしても、間奏曲という意味に転じるはずはない。伊和辞典の二つ目の意味は「決まり文句」。リフレインとは繰り返しのことだからうなずける。


決まりきった日常生活にふと倦怠を感じた主人公の五十代女性。彼女が田舎からパリに出るのを寄り道ととらえ、二日間息抜きする様子を生活の幕間に流れる間奏曲になぞらえた……音楽が一つの伏線になっていることもあり、この邦題に決まった、とぼくは勝手に想像している。だが、元々は「リフレイン」のことだから、息抜きよりも「来る日も来る日も決まりきった作業の繰り返し」という点が主題なのだろう。

題名は興行の成否にも影響するし、名作として残るためにはそれなりの表現の格も重要なのに違いない。原題の文言に忠実であろうとするか、作品の主題を生かす工夫をするか、邦題の表現づくりは大いに悩む仕事であると想像できる。過去の洋画の題名をいくつか思い出す。

“Taxi Driver”は『タクシードライバー』、“Love in the Afternoon”は『昼下がりの情事』。いずれも原題に忠実な邦題である。

『俺たちに明日はない』は原題“Bonnie and Clyde”からかけ離れている。ボニーとクライドの名前が消えた。

数年前に観たフランス映画『オーケストラ』の原題は“Le Concert”。コンサートとオーケストラは正確には違うが、これはオーケストラのほうが作品に合っていたと思う。

イタリア映画“Il Papa di Giovanna”は、直訳すると「ジョヴァンナのパパ」だ。これが『ボローニャの夕暮れ』に化けた。

最近観たイギリス映画に“Le Week-End”がある。これだけだと週末にどこに行くかわからない。邦題は『ウィークエンドはパリで』となり、今朝の映画の題名によく似ている。いずれの原題にもない「パリ」を邦題に入れて女性ファンを増やそうという狙いに違いない。実際の旅でも映画の舞台でもパリの吸引力は強い。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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