語句の断章(15) 一般

つい聞き流し読みとばしてしまいそうな、何の変哲もないことば。「一般」はその最たるものだ。それでもわざわざ取り上げるのは、ぼくなりにささやかな気づきがあったから。

この語は「ごく当たり前」という、普通の意味で使うことが多い。たとえば「このコースなら、普通はデザートがつくはず」と言うように。もしデザートがつかなかったら、それは「特殊」ということになる。特殊は一般の対義語である。

「一般的」や「一般化」という言い方もよくする。「弘法大師は空海という名で一般的に知られている」とか「急がば回れという教えを一般化するのは危ない」という具合だ。広く認知される、あるいはおおむね成り立つというほどの意味になる。

まったく関心などないが、再々婚する大物タレントの相手が「一般女性」であると紹介された。また、つい4日前に引退を表明した大物芸人が「一般人になる」と言い放った。さて、ぼくたちが用いる一般と、芸能人が用いる一般、はたして同じ意味だろうか。ノーである。芸能レポーターは、一般女性を「非芸能界的女性」の意味で使っている。芸能人どうしの結婚の話題性に比べれば、一般女性との結婚は記事ネタとしては妙味がない。「お相手は一般女性」という表現に、彼らのがっかり感を窺い知ることができる。

「一般人」も異様に響く。知名度抜群の大物芸人がある日突然一般人になれば、芸人ゆえに差し控えていた訴訟も辞さないというのは奇妙な論理だ。一般人になってもなお中傷誹謗に巻き込まれることを前提にしている。そもそも芸能界に君臨した人物が一般人へとUターンできるのか。「普通の女の子になる」と言ってもなかなか戻り切れないのが現実だ。てっぺんから転落したと本人が言い、明日から一般人であると言った。明らかに落ちぶれるというニュアンスである。天上界の人よ、ようこそ下界へ。

言うまでもなく、特殊が優位で一般が劣位などという決め事はない。一般席、一般職、その他一般、一般教養、ソシュールの『一般言語学講義』、アインシュタインの『一般相対性理論』……。一般、大いに結構ではないか。一般には、等しくすべてのケースに当てはまるという普遍価値が見い出せる。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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