アイデアを探るツール~入門編

「お客さま、新大阪ですよ。」 乗務員さんの声がよく聞き取れなかった。「えっ、何とおっしゃいました?」 「あのう、新大阪に到着しています。」

駅に停車しているのは、窓の外を見ていたのでわかっている。ぼくはその駅をてっきり京都だと思っていて、微動だにしていなかった。今日の午後、東京からの下りの新幹線のぞみの車中だ。名古屋を出たのは覚えているが、完全に京都が抜けている。熟睡していたのではない。熟考していたのだ。集中していて完全に我を忘れていた。新大阪止まりの列車だったので、乗り過ごさずに済んだ。


こんなことはめったにない。複雑思考のときほど起こらない。複雑すぎると意識が散漫になって集中できなくなる。ネタが少なくて単純思考しているときほど案外のめり込む。今日は「座標軸思考」をしていた。ABという二項対立、XYという別の二項対立を単純に組み合わせるだけだ。

A→有言」とすると「B→不言」。「X→実行」とすると「Y→不実行」。AB軸をタテに、XY軸をヨコに十字を描けば、4つの組み合わせができる。すなわち、有言実行、有言不実行、不言実行、不言不実行。それぞれについて、真面目にかつ不真面目に思いを巡らしていたら、京都駅が抜けるほど深いところに入っていたのである。ざっと次のように……。

ちょっとひねってみたい気はするけれど、やっぱり有言実行が一番でしかたがないか。道徳論者みたいかな? でも、ことばというシナリオにしたがってアクションを起こしているのだから、他者は理解しやすいだろう。午前11時にうかがいますと約束して、その時間に来るなら、ひとまずいい人と評価できる……。

有言不実行はよくやり玉にあがる。「口ばっかり」と呆れられる。周囲にも結構いるもんだ。みんな6時に来てくれよと言っておきながら、自分だけ来ないヤツ、いるなあ。でも、評論家のほとんどはこれで生計を立てているのだからおいしい生き方かもしれん……。

不言実行。「男は黙って何々」という逞しさがあるが、思いつきやデタラメの可能性もある。約束もしていないのに、突然やって来られては困る。無断拝借というのもこの部類か。何も言わずに事を運ぶのだから、危ない匂いもする……。

約束もしないし、やって来ることもない。可否の判断とは無縁か。ちょっと待てよ、何も言わず何もしないという不言不実行は、ミスをすると罰せられる職業においては完璧な方法論ではないか。いや、死人だって何も言わず何もしないぞ。あ、そうか、不言不実行な仕事ぶりの連中は「生けるしかばね」なんだ……。


とまあ、こんなふうに考えたわけである。アイデアが出るとはかぎらないが、アイデアマンを志願するビギナーにとっては思考習慣につながるはずだ。ABXYのそれぞれに対立または並立するキーワードを入れるだけ。就寝前にこれをやると眠れなくなるので注意していただきたい。それと、列車の終着駅周辺に住んでいない人は乗り過ごすことがあるので気をつけたほうがよい。    

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

「アイデアを探るツール~入門編」への2件のフィードバック

  1.  居眠りをしていて乗り過ごしたことは数知らず、アイデアの世界を彷徨っての乗り越しのない自分にとっては耳の痛い、いえいえ、ハッと気づかされる話でした(ちなみに考え事をしていて下車駅を通り過ぎたことはあります。もういいって<笑>)
     「全ての物事には二面性がある」とはよく言われますが、よほど意識して考えないことには通常、一方の側からの視点だけで判断を終了させてしまう。そのことの多さともったいなさに改めてビックリ。そうか!象限で考えると二面どころか、四面で考えられるのか。一面でも思考の浅い自分が、いきなり四面で思いを巡らす覚束なさは棚に上げ、次の思索にテーマを何と設定するか?
     しかし、新幹線にはまず縁のない自分の環境だと、代わりの舞台は片道20分の通勤電車内? うーん、これでは頭の回転をかなり要求されそうです。
     

  2. イージー・ゴーワー。いい投稿ネーム。これってサンデーサイレンスと同期のアメリカの馬名だったはず。さて、ぼくも二年前まで片道40分の通勤者だった。乗り換えが2回なので、考え事などする時間はない。だからだいたいジョークの本を読んでいた。長いジョークで1ページだから、これだと中断されない。イージー・ゴーワーさんも時々早めに自宅を出て、せめて片道小一時間の日をつくってみてはいかが?

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