着眼発想のヒント

あるテーマについて企画をするとしよう。まずはテーマの切り口である「コンセプトの置き場」を見つけることが基本になる。たとえば料理というテーマなら、調理人、季節、素材、味付け、器具、レシピ、その他諸々の切り口がある。コンセプトは概念と訳されるが、発想という意味合いが強い。ちなみに、概念の「概」はおもむきであり全体をならすこと。かいつまめば、文字通り「おおむね」になる。

着眼発想に到るには二つの思考作用が働く。一つは、経験と知識に裏打ちされた「瞬発力」のようなもの。ある一つの理想を願望と不足感によって起動させる。緻密な分析によるものではない。瞬発力とはひらめきだ。もう一つは、経験と知識に新しい情報を取り込んで融合させ、じっくりと時間をかける「熟成」させる。ある種の粘り強いやり方だ。熟成とは、しばし主観に控えてもらって待つという忍耐の言い換えである。

瞬発力と熟成は、許容されるタイムリミットとテーマによって使い分ける。長期的な企画であっても、出発点はおおむね瞬発力を発揮することになる。瞬発力の質がその後の構想のありようを決定づける。問題分析、原因探し、分類などの定常処理を急がず、「あったらいい、できたらいい」という願望を拙速気味に形にしてみるのだ。スピードは着眼発想の初期段階では絶対的な要件なのである。


ある日突然着眼発想力が身につくような奇跡を期待しないほうがいい。万が一僥倖があるとすれば、アイデアを出そうと格闘してきたエネルギーが飽和状態になって閾値を越える瞬間だ。何百回か何千回に一度、「あ、何かが変わった」と体感することがある。

インプットの大半はルーティン作業であり、忍耐強く当たり前のことを続ける習慣である。習慣が恒常的になると努力という意識がやがて消える。しかし、インプットするだけでは知は動いてくれない。なぜなら、情報を取り込むインプットの経路とアイデアを表出させるアウトプットの経路が同じではないからだ。インプットの頻度と質に劣らないほど、書いたり雑談したりの日頃のアウトプットに励まねばならない。

着眼発想するその先に、それを形にする企画がある。企画とはよくできたことばだ。「画を企む」仕事である。画というイメージは構想であり、アイデアやコンセプトを拠り所とする。どこかで見たことのある画であってはならず、初見でありハッとする新鮮味があってこその画である。画は言語化されてはじめて姿を現わす。脳に指差して「こんな感じ」と言っても伝わらない。もしアイデアもコンセプトも的確にことばにできないのなら、瞬発力も熟成も未だ道半ばだと自覚すべきだろう。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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