語句の断章(65) 付箋

英語の「ポストイットPost-it)」付箋ふせんと訳したのではない。また、付箋のことをポストイットという英語で言い換えたのでもない。付箋とポストイットは同じ機能を持つ同種の文具だが、付箋は一般語で、ポストイットは3Mスリーエムという会社の商標である。Post-itというロゴの右上にはのマークが印されている。


ポストイットが画期的だったのは貼っても簡単にはがせた点だ。脱着可能な糊が発明されてポストイットが1968年に発売された。もちろんそれ以前からわが国に付箋はあった。注釈や覚書を書いた紙を本に挟んでいた歴史がある。はさむだけでは紙片が落ちるから、糊で貼った。昔の古文書に付箋が貼られているのを展示会で見たことがある。

企画会議などではポストイットと呼ぶ人が少なからずいる。もちろん、付箋という、少々古めかしいことばを習慣的に使う人もいる(若い世代にもいる)。ところが、書くとなると、ポストイットが増える。理由は簡単。付箋の「箋」が書けないのだ。便箋の箋なのに、使う頻度が異常に少ない。便箋は使うくせに便箋という漢字はあまり書かない。生涯一度も書かない人もいるはず。箋の字が書けない人は「ふせん」または「フセン」と書く。

新明解国語辞典によると、付箋は「疑問の点や注意すべき点を書いて、はりつける小さな紙切れ」。そう、付箋にはすでに「紙」の意が含まれている。だから、付箋紙と言ったり書いたりするには及ばない。便箋のことをわざわざ便箋紙と言わないのと同じだ。

実は、付箋は人気のあるステーショナリーである。文具店を覗いてみると品揃えの豊富さに驚く。本を読み企画をし文章を書く仕事に従事していたので、一般の人の何十倍も付箋を消費してきたと思う。重宝して使っているうちに、差し迫った必要もなく在庫もあるのに買う癖がついた。

本家のポストイットに比べて百均の付箋は激安だ。そのせいで気軽に買うから、どんどん増える。増えたら使えばいいが、付箋というものは使っても使ってもいっこうに減らないのである。同じサイズ・色のものばかり使っていると飽きるから、在庫があるのにまた買う。文具好きの机の引き出しには付箋の束が詰まっているはずである。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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