大阪人の悪しき自画自賛

挑発的に書きたいと常々思っていたテーマである。大阪人の所作や弁舌に独特のおかしみがあることをひとまず認めておこう。テレビ番組『秘密のケンミンSHOW』でも毎回取り上げられるので、大阪人の生態は全国的にもよく知られつつある。聞くところによると、いよいよ大晦日(関東では元旦)には、みのもんた直々の大阪体感ツアーが放映されるらしい。

仕事柄日本各地に出掛けるが、テレビで見た大阪・大阪人の真偽を確かめられる。「大阪の人って、ほんとうにあんなふうなんですか?」と。「誇張はされているけれども、実体から遠からず」と答える。しかしだ、テレビ画面の向こう側にいる大阪人を「お茶目な対象」として遠巻きに大笑いはできても、実際に彼らと至近距離内で接した瞬間、あなたの顔から笑顔が消えるに違いない。


大阪部族
その昔、大阪はアキンド、ヤクザ、ヨシモトという三大土着部族で構成される多人種都市であると、まことしやかに語られていた。そんなバカなことはないが、他の少数部族に目立つ余地がなかったことは事実である。ちなみにぼくの両親は大阪生まれだが、祖父・祖母の代になると、広島、京都、京都、奈良である(ぼく自身はマイノリティと自覚している)。なお、メジャーな三大部族にしても純血種はほとんど存在していない。知り合いにはいずれか二部族のハーフか、三部族すべての混血が多い。さる東京の知識人は「大阪土着民は日本人ではなくアジア人」という説を唱えている。

愛郷精神
大阪部族は4月から10月にかけて虎に熱狂するが、この季節的愛郷精神など可愛いものである。何をおいても問題なのは、オバチャンやコナモンなのではなく、オバチャンをはじめB級名所・B級グルメを年がら年中必死に熱弁する「ステレオタイプな人々」なのである。彼らには大阪の正しい実像が見えておらず、「オモロイ」というコンセプトを唯一の頼りにして土着風土と衣食住を偏愛する。昨今、大阪府も大阪市も観光行政に力を入れつつある。このことは評価できるが、クールに大阪の長所・短所を見てもらわないと困る。グローバル視点からするとあまりにも滑稽なことを、あまりにも本気で考え、おぞましくも本気でやろうとしているのだ。

観光資源
お願いである。どなたか権威筋の方は正直に語ってほしい、「大阪には胸を張れるような観光資源はない」と。この謙虚で控え目なスタンスから独自の観光哲学が生まれる。江戸時代末期の風情ある浪速百景を根こそぎ壊しておいて、今さらセーヌ河やヴェネツィアを真似ようとするのは虫がよすぎる。「光を観る」のが観光ならば、どこにその光とやらがあるのか。キラキラコテコテのミナミ界隈のネオンか、はたまたメタリックな大阪城か(世界遺産の姫路城と比較すれば、たしかにオモロイかもしれない)。「大阪のオバチャンを観光資源にしよう」と提案する、とんでもない錯覚に陥っている知識人もいる。「見ず知らずだが、
咳き込んだ人にアメちゃんを配り、デパートや高級店で商品を値切り、豹柄を着て日傘を立てた自転車に乗るオバチャン」。そんなものが観光資源になるわけがない。海外からの観光客数一位と二位のフランスとスペインにそんなオバチャンがいたら、誰も寄りつかないだろう。

食い倒れ
B級グルメの食べすぎで倒れた?」と言われかねないから、くいだおれ太郎の引退を絶好の機会として、「食い倒れ」ということばを死語にしてしまおう。大阪発のグルメ番組をご覧になればいい。「焼肉→串カツ→たこ焼き・お好み焼き」をローテーションで放送している。「大阪の味は世界でも通用する」などとよくも平然と語れるものである。観光に来たから食べるのであって、どこの国の人もわざわざ自国でたこ焼きに食指を伸ばさない。断言するが、蛸料理は未来永劫世界のスタンダードにはならない。コナモン大阪と言うけれど、欧米はみんな粉ものではないか。パン、パスタ、ピザ、クッキー、パイ、ケーキ……。まったく差別化などできていない。敢えて言えば、大阪食文化はコナモンなのではなく、ソース味が特徴なのだろう。何を食べてもソース味。濃い味付けは食の文化度に「?」がつく。


大阪および大阪人に悪態をつくと、「そんなに気に入らんのやったら、出て行ったらええがな!」と誰かが言ってくる。そう、幼稚なワンパターン反駁である。

大阪を魅力ある街として再生したいのなら、観光客と住民双方の視点で見るべきなのだ。大阪という受け皿から見ているかぎり、いつまでたっても悪しき自画自賛を繰り返すばかり。オバチャン、大阪城、コナモンに罪はない。それらを偏愛し誇張することが、大阪の像を歪めていることに気づこう。ステレオタイプな大阪を浮き彫りにすればするほど、魅力ある街へのチャンスが遠ざかることを忘れてはならない。 

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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