思惑外れ

いつ壊れても不思議じゃない「壊れかけのRadio」が何年も壊れず、つい昨日まで機嫌よく動作していた外付けのハードディスクが何の前触れもなく突然スイッチが入らなくなって壊れる……。人間側からすれば思惑が外れているのだが、機械のほうには機械の、人には計り知れない事情と寿命があるようだ。

思惑が外れないようにする唯一絶対の方法がある。都合のいい見通しを立てたり算盤を弾いたりしないことである。思惑通りにいかない時の苛立ちと不幸を免れるにはこれしかない。想定は想定内に収まらず、むしろ想定外に落ちるものと相場が決まっている。


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いつぞや友人とこじゃれた喫茶店に入った。ぼくがコーヒー、コーヒーを飲まない友人はトマトジュースを注文した。彼は「トマトジュース」とフルネームで告げた。にもかかわらず、注文を受けた女店員はカウンター越しに「トマジュー」とマスターにリレーした。時にことばの省略・短縮は消費価値の低減になる。よく目を凝らせば、マスターは冷蔵庫からデルモンテかカゴメの缶を取り出してグラスに注ぎ氷を放り込んだ。一丁上がり。なるほど、これならトマトジュースではなくトマジューだ。思惑などあったわけではないが、ちょっとがっかりして思惑が外れたような気分になった。

大多数が願っていないことが現実になるという思惑外れもある。一人ひとりの思いを単純に足せばノーという帰結だったはずなのに、不思議な作用が働いて総意がイエスになってしまう。英国のEU離脱決定はそんな感じだったのだろう。「ひどい連中が撤退していった結果、一番ひどいのが残った」とは、共和党の大統領候補にトランプ氏が確実になったのを受けてつぶやいたある市民の声である。

TPOまでよく考えて悩みに悩んで買ったスーツ。仕立て上がったのを着たら気に入らなかったということはよくある。挙句の果てに、ほんとうはこの色のスーツは欲しくなかったのにと愚痴る。愚痴の矛先は仕立屋にではなく自分に向いている。トマトジュースやスーツから政治経済に至るまで、思惑は外れるもの。慎重な意思決定や自信たっぷりの洞察力の程をよくわきまえておくべきだろう。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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