習作した頃 #8

 四行連詩 《内と外》

きみがきみの存在を知ったのはいつだったか
きみの存在がきみを知るずっと後のことだった
貝の身が殻の存在を心得ているからといって
包んでいる中身を殻が知っているとはかぎらない

怠惰はおそらくきみを知り尽くしていた
きみという安住の殻にさえ守られていれば
分裂と合成を繰り返して生き延びられるということを
きみが怠惰の存在に気づく前に怠惰は知っていた

夢はきみによって求められていることを知っている
夢はそのうえで逃げ回りあるいは現れる
未熟なきみはつい最近になって初めて知った
夢が蠢きながらきみの内にあるということを

林檎の実はそれを包んでいる皮のことを知っている
熟し始めると実が鮮やかに色づくことも知っている
けれども林檎の皮が甘い実の味を知っているとはかぎらない
皮であることを知らない皮に実の正体がわかるはずもない

きみたちはきみたちの回りに世界があることを知っている
渺茫びょうぼうたる世界の移ろいの内にきみたちはいる
けれども世界がきみたちを必要としている確証はない
それどころか世界はきみたちの存在にさえ気づいていない

内と外


《1970年代の習作ノートから》