レトロな麺処の品書き

体験的記憶に残る昔のノスタルジックな雰囲気を懐かしむ時、「レトロな」という表現を使う。ぼくの世代ではレトロと言えば平成ではなく、昭和である。戦前も昭和だったが、体験的記憶となると昭和30年代。そこからいつまでをレトロとするか、それは人それぞれだ。

あまり歩かない方向に5分、年季の入った麺処に初入店した。調理場に白髪の後期(?)高齢者の店主がいるのみで、ワンオペ店のように見えた。注文を聞いてお茶を出す。ほとんどの品書きがセットなので、調理場には出汁の鍋、茹で湯の鍋、飯物めしものの具鍋など数種類の鍋に火が入っている。

この店のそばは、つなぎを使わないそば粉だけの生蕎麦きそばではない。生蕎麦の茹で時間は長くなるので忙しいランチタイムには向かない。細くて白い更科のなまそばである。早ければ2分未満で茹で上がる。食べ終わる頃には麺が延びてゆるくなる。

ワンオペにしてはちょっと品書きが多過ぎはしないか。しかも、大半が飯物と麺のセットだ。客が10人も入ると手際よくさばけるのかと心配してしまう。この店のセットは、麺処の常で、丼が普通サイズでそれに小さなそばかうどんが付く。麺は温でも冷でもよい。

しかし、この店は丼ものも麺も小さめの「ミニ・ミニセット」も出す。ハイカラ丼、玉子丼、木の葉丼、他人丼、親子丼、カツ丼の各種飯物もミニサイズだ。親子丼と温かいそばのセットを注文した。後から来た客のほとんどがこのミニ・ミニセットを指名していた。

どう見てもミニとミニの組み合わせに見えない。どちらもほぼレギュラーだ。それに、かけそばのはずの麺がほとんどわかめそばである。サイズはレギュラー、料金がミニ、レトロで良心的な店。食事を終える頃、常連と店主のやりとりが聞こえた。相方が体調が悪くて休みとか。普段は夫婦二人で切り盛りしている店なのである。

後日再訪。テキパキと注文を取って配膳する相方と調理に専念する店主。客さばきと手さばきがお見事だった。この日も飯物は親子丼。麺がゆるいそばは好まないので、温かいうどんにした。そばが売りのはずだが、うどんのほうがうまいと正直な感想。前回は店主一人だったから、そばを茹で過ぎたのだろうと斟酌しんしゃくすることにした。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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