夏だ豚肉だスタミナだ! 「トンカツ」編

肉料理はライスでもパンでも合うが、ライスのほうがより融和する。肉料理の中でも豚肉料理が一番ライスに合う。しょうが焼き定食とカツ丼は最たるもの。豚肉料理でライスとあまり相性が良くないのは唯一、しゃぶしゃぶだ。しゃぶしゃぶは好物だが、あまりご飯を欲しくならない。

ライスと相性がいい、それならいきなり豚肉を一緒にすればいい。そんな発想からカツ丼や豚丼が生まれたに違いない(帯広で食した豚丼は肉が何枚もライスの上に重ねられていた)。台湾の大衆定番「魯肉飯ルーローハン」も一種の豚丼だ。甘辛く煮込んだ豚バラに滲みた八角や五香粉が独特の味わいを生む。

魯肉飯(ルーローハン)

トンカツをさらにおいしく食べやすくする食材、それが卵である。卵をとじる調理法はユニークで応用範囲も広い。カツ丼がその代表。

ダブル卵カツ丼

ダブル卵カツ丼のダブル卵とは「卵2個づかい」のことらしいが、カツを卵1個でとじてご飯にのせ、その上に生卵をトッピングするカツ丼に出合ったこともある。

カツとじ

丼を食べたい時もあるが、最初から出汁がご飯に滲みているよりも、ご飯とカツを別に盛るカツとじ定食を注文することが多い。7、8分目まで食べたあたりで、カツとじとご飯をドッキングさせて、ミニカツ丼で〆ることができる。

トンカツ定食を注文すると、ほとんどの店ではご飯と味噌汁と付け合わせのキャベツがお替わり自由。若い頃はすべて2度お替りしていたが、今はお替りするならキャベツのみ。お替りするかどうか悩むのも面倒なので、お替りなしのトンカツ定食の店に行く。

定食のヒレカツ(ヘレカツ)

阿倍野区に引っ越してきたので、シニアならよく知っている老舗の「グリルМ」に久しぶりに入り、ヒレカツ定食を注文した。この店のイチオシはロールキャベツだ。20代の頃、店の近くの英会話学校で勤務していたので、ロールキャベツは何度か食べている。ヒレカツは初の実食。先入観のせいか、懐かしい昭和の味を思い出した。

豚肉料理について3回シリーズで書いた。酷暑の夏をバテずに過ごせているのは豚肉のおかげだと思うことにしている。なお、今日の昼は自宅でラムを炒めた。羊肉も夏にいい。

〈終〉

夏だ豚肉だスタミナだ! 「酢豚」編

豚肉は鶏肉よりもお値段高めだが、牛肉に比べるとおおむねリーズナブルだ。しかし昨今はブランド豚も出回るようになり、ビフカツに負けない高級なトンカツもちらほら見かける。子どもの頃は肉と言えば豚肉で、牛肉はハレの日の食材だった。それでも、外食でトンカツとなるとご馳走感があった。

中高生の頃はご褒美がグリルでの食事だった。人気はトンカツとトンテキ。トンテキもポークソテーも厚切りの豚肉をフライパンで焼く。味の濃いトンテキに対して、ポークソテーは塩コショウしてあっさりめのソースで仕上げる。父のひいきはポークチャップだった。こちらはソテーした豚肉をケチャップとウスターソースを合わせた甘酸っぱいソースをかけたもの。洋食のようだが、実は日本生まれの料理。

いつもトンテキを注文していたが、ある日、父の注文に次いで「ぼくもポークチャップ」と言ってみた。甘さと酸味とソースの濃さがライスによく合い、トンテキよりもよく食べるようになった。好きな中華料理は酢豚がダントツだが、あの頃の洋食ポークチャップの甘酸っぱさが酢豚につながっていると思う。今日の豚肉料理は酢豚づくし。

定番酢豚

スブタと言えば、広東の流れを汲むこの酢豚が定番。野菜は店や料理人によって変わるが、見ての通りのピーマン、タマネギ、ニンジンが標準。パイナップルやタケノコも具材として使われる。迷ったら酢豚、迷わなくても酢豚というほどランチタイムの中華料理店では人気ナンバーワン。昔、ライスをお替りして甘酢のあんをかけて食べる友人がいた。

ステーキ風厚切り黒酢酢豚

黒酢酢豚を注文したら、こんな分厚い一枚肉で出てきたことがある。肉以外には甘酢をやわらげるレモンのスライスがのっているのみ。この一品はフォークとナイフで食べる。面倒くさいが、酢豚の肉は小さいと頼りなく、大きいと食べにくい。それならお好みのサイズにカットして召し上がれということか。黒酢のパンチがとてもよく効いていた。

中国東北料理の満州酢豚

この酢豚に出合ってから、酢豚は豚肉だけを食べるもの、野菜は別になくてもいいものと思うようになった。薄切りの豚肉をカリッと揚げ、そこに透明の甘さあっさりのタレがかかっている。これは酢豚と言うよりも「豚天ぶたてん」に近い。この酢豚を出す店を4、5店知っているが、どこも半端ないボリュームを盛ってある。

〈続く〉

夏だ豚肉だスタミナだ! 「炒・焼・煮」編

暑い時期のスタミナ食材の象徴が土用の丑のうな丼、うな重。はたして本当にそうなのか。仮にそうだとしても、年に2、3度利用する店では上が3,600円、特上が5.200円。ひつまむしなら並が3,200円で特上が5,400円。高級店の割には比較的良心的な値段設定だが、スタミナ補給としては他の食材に比べてコスト高だ。

今年の鰻は昨年よりも買い求めやすいと聞いて、スーパーで大きめの良さそうな鹿児島産を買った。一尾使ってうな丼にすれば10分で完食してしまう。これではもったいないので、鰻を小さく長方形にカットし、硬めに炊いたご飯でひつまむしにした。小さな茶碗で一杯目は普通のうな丼。次に、大葉、ミョウガ、ネギを刻み、わさびを添えて二杯目。そして三杯目には肝吸いの出汁でお茶漬け風にいただいた。

大変満足したが、鰻料理にはうな丼かひつまむし以外の選択肢は多くない。夏だ、鰻だ、スタミナだ! と叫んで小躍りしても常食できるものでもない。と言うわけで、昔からずっと夏のスタミナ食には財布にやさしい豚肉を指名してきた。夏バテ予防のビタミンB1が他の肉類に比べて格段に豊富に含まれている。今夏も出番が多い。今日は豚肉を炒めたり焼いたり煮込んだりする料理のラインアップを紹介する。

豚肉のオーブン焼き

写真は食べやすくカットしたもの。焼く時は手のひらサイズほどの肉のままがいい。溶けだした脂と野菜がよく調和する。ハーブ塩だけのシンプルな味付けがオーブン料理に合う。なお、スペアリブの煮込みも夏向き。軟骨がやわらかくなるまで煮れば箸でもほぐせる。

ニラレバ炒め

ビジュアルで好き嫌いが分かれるが、このビジュアルこそが夏との闘いの力になってくれるのだ。「ニラレバ」とぼくは呼ぶが、ニラレバでもレバニラでも使う材料は同じ。レバーの新鮮度と味は店によってかなり違うからあちこちへ足を運んで試行錯誤するしかない。

三段バラと野菜炒め

中国東北料理の店のメニューの一品。キクラゲ、ピーマン、ニンジンとの組み合わせが絶妙で、見るからに栄養満点だ。この料理の前にすでに羊肉の串焼き10本と水餃子を食べている。この組み合わせだと飯類はいらない。

〈続く〉

旬の食材は「おまかせ」

蕎麦の名店に行ってきた。引っ越せばこのあたりには来なくなるから食べ納めのつもり。家近くなのに最近は足が遠のいていた。年越しそばを2回パスしていたから2、3年ぶりかもしれない。珍しく並ばずに入れた。さあ、何を注文するか……などと悩むことない。いつもざるそばだ。

食べ納めだから、少々贅沢に旬菜の天盛りざるそばを注文した。この店の天ぷらは手打そばにひけを取らない。メニューに旬菜の定番が書いてある。春にふさわしい次の8種が盛られる。

・ふきのとう
・菜の花
・こごみ
・芽キャベツ
・行者にんにく
・安納芋
・たらの芽
・姫人参

しかし「その日の仕入れにより食材が変わることがあります」と注釈が付いている。春の旬菜は食べ慣れないので、見た目だけでは名と実物が照合できない。いや、見た目だけではなく、口に入れても一致する自信がない。ざるそばより少し遅れて天盛りが運ばれた。

食べ始めてすぐに、定番にないレンコンとタケノコに気づく。さらに、舞茸とアスパラに出合う。この4種が加わって、定番のどの4種が外れたのか。詳しくないうえに衣に包まれているからよくわからない。おそるおそる口に入れて味を噛みしめて何となくわかってきた。

どうやら菜の花、こごみ、たらの芽、姫人参が入荷できなかったようだ。旬のものはある時とない時がある。旬の食材を使う料理やコースが基本「おまかせ」になるのはそのせいかもしれない。「あれを期待していたのに入っていないじゃないか」と難癖をつけない。好き嫌いがないのでおまかせして後悔することがない。

レトロな麺処の品書き

体験的記憶に残る昔のノスタルジックな雰囲気を懐かしむ時、「レトロな」という表現を使う。ぼくの世代ではレトロと言えば平成ではなく、昭和である。戦前も昭和だったが、体験的記憶となると昭和30年代。そこからいつまでをレトロとするか、それは人それぞれだ。

あまり歩かない方向に5分、年季の入った麺処に初入店した。調理場に白髪の後期(?)高齢者の店主がいるのみで、ワンオペ店のように見えた。注文を聞いてお茶を出す。ほとんどの品書きがセットなので、調理場には出汁の鍋、茹で湯の鍋、飯物めしものの具鍋など数種類の鍋に火が入っている。

この店のそばは、つなぎを使わないそば粉だけの生蕎麦きそばではない。生蕎麦の茹で時間は長くなるので忙しいランチタイムには向かない。細くて白い更科の生なまそばである。早ければ2分未満で茹で上がる。食べ終わる頃には麺が延びてゆるくなる。

ワンオペにしてはちょっと品書きが多過ぎはしないか。しかも、大半が飯物と麺のセットだ。客が10人も入ると手際よくさばけるのかと心配してしまう。この店のセットは、麺処の常で、丼が普通サイズでそれに小さなそばかうどんが付く。麺は温でも冷でもよい。

しかし、この店は丼ものも麺も小さめの「ミニ・ミニセット」も出す。ハイカラ丼、玉子丼、木の葉丼、他人丼、親子丼、カツ丼の各種飯物もミニサイズだ。親子丼と温かいそばのセットを注文した。後から来た客のほとんどがこのミニ・ミニセットを指名していた。

どう見てもミニとミニの組み合わせに見えない。どちらもほぼレギュラーだ。それに、かけそばのはずの麺がほとんどわかめそばである。サイズはレギュラー、料金がミニ、レトロで良心的な店。食事を終える頃、常連と店主のやりとりが聞こえた。相方が体調が悪くて休みとか。普段は夫婦二人で切り盛りしている店なのである。

後日再訪。テキパキと注文を取って配膳する相方と調理に専念する店主。客さばきと手さばきがお見事だった。この日も飯物は親子丼。麺がゆるいそばは好まないので、温かいうどんにした。そばが売りのはずだが、うどんのほうがうまいと正直な感想。前回は店主一人だったから、そばを茹で過ぎたのだろうと斟酌しんしゃくすることにした。

シニアたちの晩餐会

数年前から、オフィスの読書室に手製の料理を持ち込んでワインの飲み比べテイスティングの会をしている。大学の2~4学年の後輩たちがメンバー。集まるのは5、6名だが、用意するワインは4種類。シニアにしてはグラス4杯はやや飲み過ぎかもしれない。

1年3ヵ月ほど間まが開いた。「3月あたりどうですか?」と、ワイン会主宰のぼくに声が掛かった。「オフィス退出の準備で忙しい状況なので、ワインをセレクトしたり手料理を準備したりするのは難しいが、イタリアンかフレンチでの外食ワイン会なら」と告げた。

店と料理で悩んでいたが、コロナ前までよく利用していた近場のレストランを思い出す。フレンチ主体の欧風料理の店、灯台下暗しだった。無理を言って定休日に開けてもらい、一昨晩、地元大阪と神戸がそれぞれ2人、名古屋と東京から各1人の6人が集まった。32席ある店を6人で貸し切るという厚かましい贅沢ぶり。


すべてシェフにお任せした。ワインは、発泡酒がスペインのカヴァ、1本目の赤はドイツのピノノワール、白はフランスのシャルドネ、2本目の赤はフランスのメルロー。以上4種。アミューズ、前菜の盛り合わせ、スープ、魚料理、デザート、エスプレッソのコースで、2時間半を越す晩餐会になった。

フランス料理の名称は長い。食材名と調理法と(場合によっては)産地までが含まれる。説明や薀蓄が必須であるが、傾聴しても覚えることは容易ではない。特に、料理の写真を撮って安心し、そして歳のせいもあって、料理の名前がおろそかになる。二晩過ぎた今日、記憶を辿った。だいたい覚えているが、あやふやな点はAIに写真を見せて類推してもらった。

フォアグラのブリュレ アミューズにフォアグラとは驚いた。表面を加熱してキャラメルを焦がし、バターに見立てたフォアグラを熱々のシナモントーストに塗る。
オードブルヴァリエ ムース仕立ての半熟卵(中央)、その上から右回りに、鰯のエスカベッシュ、鯖のエスカベッシュ、キングサーモン、和牛・鴨・鶏のロースト、四万十豚のハム見立て。
チュイル・ド・フロマージュ(カリカリチーズ)と鯛のすり身と大根のアッサンブラージュ、蛸のラグーソース添え
デザートの盛り合わせ クレームブリュレ(焼きプリン)、ストロベリーのジェラート、ガトー・オ・ショコラ

料理の色彩と記憶

先日、複数の店とメニューをチェックしていた。いろんな会の幹事をしているが、別に直近に集まりがあるからというわけではない。西洋料理店の定番のコースメニューにも目を通したが、以前ほど魅力を感じなくなった。

結婚式以外で洋食コース料理を最後に食べたのはもう10年以上も前。どんなコースだったかはうろ覚えだが、ノートに書いていたので一部思い出した(ノートにはいろんなことを書くが、料理のことや名称は今も割とマメに記録する)。招待されたその日のコースは下記の内容だった。

アミューズ:アボカドとビーツのスープ仕立て、エビのトッピング
前菜:鯛の昆布じめカルパッチョ
スープ:シーフードのミネストローネ
パスタ:鶏肉のペンネ、チーズ風味
魚料理:スズキのポワレ
肉料理:牛肉ロースのステーキ
デザート/コーヒー

こうしてメニューを見てみると、基本はイタリアンの店だったようだ。イタリアンにフレンチが少々入っている感じ。

招待なのでお値段はわからない。申し訳ないが、料理の見た目も味もあまり記憶にない。だいたいこの種の宴席では会話が多いので料理への意識が薄くなる。ホテルレストランなのだが、ドレスコードも緩かったし、格式ばったところもなかった。

一番印象に残っているのが、最初に出てきたアミューズの「アボカドとビーツのスープ仕立て」だ。目立つ色や記憶に残りやすい色については様々な見解があるが、ぼくの場合、赤と赤茶色に注意を引かれる。

トマトの赤、トウガラシ、スイーツならイチゴやベリー。ボロネーゼのソース、焼肉とつけだれの赤茶色。食後にも記憶の余韻が残る色彩だ。あの日のビーツのスープがどんな味だったかあまり覚えていないが、血液のような色の印象だけは今も残っている。

小麦粉から麺類へ

ランチがすべて麺類だった某年某月のある1週間。次のようなラインアップだった。

月曜日、つけ麺。火曜日、上海焼きそば。水曜日、割子わりご蕎麦。木曜日、皿うどん。金曜日、トマトソーススパゲッティ。土曜日、鶏魚介ラーメン。日曜日、肉うどん。

昼に3段の割子蕎麦を注文するとサービスでもう1段付いてくる。

この週の前後の週でも、ビーフン、冷麺、フライ麵などを食べていた。まるで小麦が主食かのような食生活だった。

小麦が麺になるには手間がかかる。まず小麦を粉にして水で溶き、こねて圧して生地状にし、さらによく延ばしよく打ち、適当な長さに切り揃えたり押し出したりして麺が出来上がる。小麦粉を水で溶くと、2つのたんぱく質が結合する。一つは伸びのあるグリアジン、もう一つは弾力のあるグルテニン。結合して形成されるのが粘弾性ねんだんせいの強いグルテンだ。

グルテンに食塩を加えて生地に圧力をかけると、さらに粘りが増して延ばすことができる。こうして、小麦粉はすでに約1万年前に古代メソポタミアでパンに加工されていた。麺ができるのはパンのずっと後である。麺はいつできたのかをいろいろ調べてみた。諸説あり過ぎて素人の手には負えない。

麺の痕跡と思われるものが紀元前中国の遺跡で見つかっている。本格的な麺の歴史は唐の時代らしいが、朝鮮半島経由で日本に伝わったのは宗そうの時代で、わが国では平安時代と鎌倉時代に当たる。麺には手で延べる方法と手で打つ方法があり、手延べの代表がラーメンと素麺そうめん。手で打つのは板状の生地を作るためで、それを包丁で細さと太さを切り揃えて麺の形にする。うどんと蕎麦はこうして作られる。

押し出し方式という第三の製法がある。パスタの作り方がそれ。パスタの起源や伝来も諸説ある。やっぱり中国からイタリア半島に伝来したというのが一説。いや、東アジアと東南アジアに広まった中国の麺がインドに伝わっていないぞ、インド抜きにしてイタリアまで達するはずがないというのが他説。

イタリア半島にいた(古代ローマ時代前の)エトルリア人由来だろうというのが別説。ぼくはと言えば、中世の時代に中国と交易していたアラビア商人がイタリアに伝えたという説に与くみしたい(但し、ポンペイの遺跡にはパスタに似た料理の壁画が発見されている)。以来、パスタは全世界に広まり、パスタは現在500種類以上あると言われている。

麺類の起源は定かでなくても、連続7日間食べてもうまいと思えるほどの恩恵を享受している。どこかのラーメン店が作ったスローガン、たしか「人類はみな麺類」だったと思うが、なるほどと頷ける。

おもしろい食事処

一見いちげんの客として店を選ぶ基準に「味」を置けない。誰かに教えてもらう情報も食べログでの評判も味に関しては半信半疑だ。と言うわけで、入店前に得られる情報は店名、店構え、メニュー/値段だけである。店名は重要だ。そば処なのにカフェのような名前、インドネパール料理なのに漢字の店名はセンスを疑う。メニューに誤植を見つけたらだいたいアウトだ。

月に2度ほど行く中華料理店の地下にインド料理店ができた。オフィスを構えるエリアは欧風カレーもインドカレーもスパイスカレーも激戦区だが、インドネパールカレーの店は徒歩数分以内にすでに5店もある。そのうちの2店はかなりの有名店だ。新規オープンのインド料理店ではいい勝負に持ち込めそうにない。

その店の前を通り掛かった。インド人と高年の女性がチラシを配っている。女性が「ランチいかがですか?」と声を掛けてくる。「今週はカレーを2度食べているので……」と言えば、「カレー以外にもいろいろありますよ」と食い下がる。「ビリヤニは?」と、たぶんあるはずがないと見て、言ってみた。「ビリヤニ、あります! セット900円ですが、100円引かせてもらいますよ」。ま、いいかという感じで店に入った。

いろんな有名店で食べてきた自称ビリヤニ通だから、期待薄の覚悟で注文した。待つ間にチラシをじっくり見たら、こう書いてある。

インド人シェフが腕を振るうスパイス豊かな本格インドカレーと日本の粋を感じる本格和そば(茶そば)。全く違う二つの本格料理を一度に楽しめる新しいスタイルのレストランです。

カレーとナンとサラダと茶そばを一度に楽しむ理由がわからない。まさかまさかのコンセプトに驚く。チラシを裏返して他のメニューを見た。もっと驚いた。

〈パスタ〉ペペロンチーノ、ボロネーゼ、明太子。
〈ピラフ〉ナシゴレン、神戸そばめし、高菜チャーハン
〈そば〉温そば、ざるそば、茶そば

この店でカレーセットやビリヤニを注文してよいのかと検証する前に、チキンビリヤニが出てきた。見た目、バスマティライスにしっかりスパイスの味がついているように見える。スプーンで一口食べた。うん? おかしいぞ、まあまあいけるじゃないか。いや、これはうまい部類に入るかもしれない。ヨーグルトソースのライタもビリヤニによく合う。

おかしい、いや、まずまずおいしい……を繰り返し一皿平らげたら、ぼくを案内した女性とは別の高齢女性が「お口直しのデザートです」と言って、プチかき氷を持ってきた。スパイスまみれの口の中がさっぱりした。

ハズレを覚悟して入店し、「おかしい」と感じ、次に悪くない、いや「おいしい」と思い、勘定を済ませて店を出る頃には「おもしろい」になっていた。ぼくの後に8人の客。このおもしろい食事処に誰かをお連れしたいと思えば再訪もありえるが、何が売りで何がおすすめかがわかりづらい店で、何を注文すればいいか……それが悩ましい。

当世ランチ外食事情

知人とのランチ談議をきっかけにランチ外食について書いてみた。

高級レストランではなく、仕事場近くでの日常の昼食なのに1,000円超えが当たり前になって久しい。メニューの数字を見れば最安が1,200円、上になるとその倍の値付けをする店も少なくない。

当世の物価事情を知っているので、値上げはやむをえないと思うし食事処の苦心に同情もする。しかし、この界隈で30数年間にわたり500円から1,000円未満で昼食してきた。その値段が刷り込まれているから、当世のランチの価格になじめない。たとえば、ミックスフライ定食を数年前に800円で食べていたのに、今では同じメニューが1,300円という変わりようだ。

社会の大勢たいせいが値上げに向かう中、あの手この手で工夫し薄利多売で頑張っている店がある。そういう店には常連がつくから、午前11時半には席が埋まる。会社もランチタイムをフレックスにして社員のサポートをしているように見える。


食事処1:初入店した時は、看板メニューの鶏の唐揚げ定食(950円)を注文した。大きめの唐揚げが6個。食後に仕事があるから、この量はきつい。後日知ったが、唐揚げを1個減らして5個にすれば900円、2個減らして4個にすれば850円にしてくれる。4個でも十分だ。同じ味付けの唐揚げでは飽きるので、竜田揚げ、南蛮などの日替わりも出す。唐揚げ好きなら週2で通える。席数約20、調理1人、ホール兼レジ1人、弁当担当1人。

食事処2:海鮮丼にミニ蕎麦とミニおでんと冷ややっこが付いている。これが680円。他にもロースカツ定食や幕の内など十数種類のランチメニューを提供していて、どれも600円~750円ゾーン。席数約60席、メニューが豊富。厨房はメインが1人、サブが1人。役割を決めていて手際の良さが伝わってくる。ホールとレジで2人。

食事処3:以前刺身定食を食べていたら、後から入って来た隣りのテーブルの客が鰻丼を注文した。運ばれてきた鰻丼が950円と知って驚いた。後日入店して鰻丼を注文した。ボリューム感のある大きさと厚み、肝串が1本付いている。中国産特有のくせをうまく消して調理してある。これは少なく見積もっても2,500円級ではないか。席数約50席、和洋メニューいろいろ。厨房不明、ホール3人。家族経営っぽい。

食事処4:カツとじ定食850円。大きめの汁椀の具だくさん味噌汁に小鉢が2つ。さらに、11時45分までに入店すると50円引き。十分に満足できるのでライスのお代わりはしたことがないが、男性客の半数はお代わりをしている。「ライスの大盛りもお代わりも自由」とメニューに書いてある。懐が深い。米の高騰にどう対応しているのだろうか。