高知への出張は毎年2、3回、十数年続いた。一昨年手を引き、土佐料理とも縁がなくなっていた。徒歩圏内に土佐料理の専門店があると聞いた。夕方に出掛けるエリアではないので、午後5時から営業のこの店に気がつかなかった。戻りガツオ気分の先月中旬に行ってみた。
土佐料理店の観察日記、略して『土佐日記』。料理、客の様子などを綴ってみる。
まずは瓶ビール。注文したのは赤星だったが、出て来たのはスーパードライ。これは小さな残念ポイントだ。たたきは本場同様の藁焼き。予定通り戻りガツオの塩たたきを注文。ニンニクのスライスの代わりに「ぬた」を乗せる。続いてブリの刺身、ハランボ(カツオのトロ)、アオサ海苔の天ぷら、ウツボの唐揚げ、シュウマイ。〆に土佐巻き。注文過多。
1カ月後、午後5時半に予約して行く。すでに席の半数が埋まっていた。注文した赤星が注文通りに出てきた。グラスに注ぎ一口、お通しを口に運ぶ。斜め後ろに欧米風の中年カップルがいる。アオサの天ぷらを食べている。大丈夫? などという心配は無料。昔と違って、観光客はぼくら以上によく調べている。
この日は、お通しを除いて3品と決めていた。カツオのたたきと他の料理を天秤にかけながら料理を選択。第1回戦は「カツオのたたきvsブリ刺し」。ブリ刺しは前回も賞味し、この日も「これからが旬だ」と自分に言い聞かせた。結果、ブリの勝ち。こんなに贅沢にカットしていいのかと思うほどの厚みだった。
第2回戦は「負けたカツオのたたきvsハランボの炙り」。カツオ対決だが、経験値の豊富なカツオのたたきに比べると、まだ数回しか実食していないハランボに食指が動いて、カツオのたたきは2連敗。
第3回戦は「連敗中のカツオのたたきvsウツボのたたき」。たたき合いするまでもなく、ウツボに軍配を上げた。こうして、食べ慣れたカツオのたたきはわが偏見によって3連敗し、この日はお呼びがかからなかった。
カウンターの角の一人客の女性は、メニューを見ては一品を注文し、そのつど違う日本酒を合わせる。ぼくが来店する前からいたので、少なくとも5種類の料理に5種類の日本酒を合わせたと思われる。箸運びとグラスの手さばきがこなれている。逞しい。
昼に過食していたので、ぼくはここでお勘定の合図。左手に座っていた若い英語圏のカップルと目が合う。ブリの藁焼きを指差して「ベリーグッド」と、(店主でもない)ぼくに言う。「それはグッドチョイスだ」とぼくも言う。「その種の魚を食べる観光客はあまり見かけない」と言ったら、「彼女はカリフォルニア出身なので魚貝が好きなんだ」と彼氏が言う。この二人も和食の事前調査が万全だったようである。
年内にもう一度来てみようと思う。他の好敵手である四万十ポークや地鶏の土佐ジローとの勝負にカツオのたたきは勝利できるだろうか。