ここ数日は過ごしやすいが、今夏は暑さとの厳しい闘いが続いた(戦闘はまだ終結していない、たぶん)。闘いのエネルギー源は肉と夏野菜。これは洋食の影響などではなく、わが国の古代食性DNAの流れを汲むものだ。
「日本では縄文遺跡から、クマ、キツネ、サル、ウサギ、タヌキなど約六〇種の陸上動物の骨が出土し、これらを食べていた。シカとイノシシが最も多い。」
(『物語 食の文化 美味い話、味な知識』北岡正三郎著;中公新書、2011年)
前後して読んだ『ことばの散歩道』(阪下圭八著;朝日文庫、1995年)に「ぼたん・もみじ・さくら」という小見出しを見つける。古来、わが国では俗に、猪の肉を「ぼたん」、鹿の肉を「もみじ」と呼んだ。猪も鹿も花札に登場する。猪とともに描かれているのは牡丹ではなく萩。鹿のほうは紅葉を背景に描かれている。
ところで、同書で紹介されている明治初期の滑稽小説『牛店雑談 安愚楽鍋』に次のくだりがある。
「牛は至極高味でごすね。此肉がひらけちゃァ、ボタンや紅葉はくへやせん」
「牛の美味は格別だから、牛肉が広まってくると猪肉や鹿肉は口にしなくなる」という意味。とは言え、牛は明治以降だから、猪と鹿は肉の世界では大先輩である。獣肉が表向き禁忌だった江戸時代、薬喰いと言ってこっそり食べていた。今の時代、猪肉や鹿肉を隠れてこっそり食べるジビエマニアはいない。堂々とありがたく食べてみたくなった。
いったん本とノートを閉じて、不要不急の用事を作り、そのついでに神戸は元町の鹿肉専門店に寄った。本を読みノートを綴ったテーマがぼくを動かした。ミディアムレア揚げの鹿肉のカツ。調理がすぐれているが、何よりも素材が新鮮だった。エゾジカステーキ以来、約10年ぶりのもみじである。

















