慌ただしい年の瀬の二字熟語遊び

師走も早や終盤に入った。年賀状じまいという一大決心をして重荷を下ろしたが、雑用が増えて気分は慌ただしい。ブログを書き下ろす時間もあまりない。さぼらないように(また、なまらないように)、夏場に書きためていた二字熟語遊びを年の瀬に捌いておきたい。


里山さとやま山里やまざと

(例文)『桃太郎』のおじいさんが柴刈り・・・に行った山は、山里ではなく、暮らしていた集落に接する近くの里山だった。

おじいさんは自然が残っている中山間地域の山に分け入って、焚き木用の小枝を取っていたのではない。そんな山里には行っていない。おじいさんが柴刈りをしていたのは、家から遠くない里山である。里山の山は低く、山里の山はそれよりも高い。山里にもわずかに人は住んでいたが、過疎地だった。「住む人もなきやまざと・・・・の秋のは月の光も寂しかりけり」という和歌が残っている。限界集落は今と変わらない。

白黒しろくろ黒白くろしろ

(例文)「白黒黒白も同じだよ」とえらく自信ありげに言う人がいたが、厳密にはそうではない。目は白黒させるが、黒白させることはない。

ややこしいが、是非や真偽については、「白黒をつける」でも「黒白をつける」でもいい。ところが、これまたややこしいことに、黒白をつけるという用例では黒白は「こくびゃく」と言うのが正しいらしい。読み方はともかく、白黒と黒白は互換性があるようだ。と言いかけて、白黒写真とは言うが、黒白写真とは言わないことに気づく。意味の重なりは一部あるものの、どうやら白黒と黒白は別物のようである。

花火はなび火花ひばな

(例文)それが線香であれ打ち上げであれ、花火がある所に火花が発する、飛ぶ、散る。他方、火花の元は花火だけではない。火花は目からも論争からも散る。

線香花火は手で持って愛で、打ち上げ花火は見上げて楽しむ。火がなくては花火は咲かないが、火がなくても散るのが火花だ。又吉直樹の芥川賞受賞作は、最初『花火』だと思っていたが、しばらくして話題になってから『火花』だと知った。書店でページを捲った程度で、作品は読んでいないからしかたがない。


〈二字熟語遊び〉は二字の漢字「〇△」を「△〇」としても別の漢字が成立する、熟語遊び。大きく意味が変わらない場合もあれば、まったく異なった意味になる場合がある。その類似と差異を例文によってあぶり出して寸評しようという試み。なお、熟語なので固有名詞は除外。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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