夢に現れた駅

夢は唐突に始まり、話が飛躍して場面もころころ変わるもの。本来終わってはいけないところで突然終わって目が覚める。論理がでたらめでイメージもあいまい。と思いきや、妙に筋が通っているところがあり、ある場面のディテールが異様なまでに精細に描かれたりする。



その夢はぼくが駅舎に近づく場面から始まった。この場面に既視感デジャブを覚えたが、初めてかもしれない。寄棟よせむね屋根の複数の建物から成る、ちょっと古びた木造の駅舎だ。ホームは4番線ほどありそうに見えた。周辺の風景ははっきり見えなかったが、夕暮れ時の昔ながらの街の郊外のような雰囲気に思えた。

ところで、夢から覚めてすぐにフィリップ・K・ディックの『地図にない町』を思い出した。あの短編の冒頭では、定期券を求める乗客の小男が行き先を「メイコン・ハイツ」と告げる。しかし、窓口の駅員はそんな名前の駅も町も知らないと言う。しかも地図にも載っていない……。

夢に現れた駅の名はわからない。しかし、ここにやってきたのは家に帰るためだ。昨日ぼくは(おそらく)仕事か何かの用事でこの街を訪れ1泊した。そして夕方の今、この駅で復路の切符を買い求めようとしている。どこへ帰るかは当然わかっている。急行で2時間半の所がわが家の最寄駅だ。

窓口で行き先の駅名を告げて次の急行に乗りたいと言った。駅員は怪訝な顔をして首を傾げ、別の駅員の所に歩み寄り、小声で何かを確認している。戻って来た駅員は「本日の急行は終わりました。次の急行は明朝の午前330分になります。それでよろしいですか?」と言う。

「ちょっと待ってください。昨日の往路の時刻表では急行は1時間に1本か2本はありましたよ。復路だって同じことでしょう。満席ということですか?」とぼく。「満席も空席も関係なく、とにかく急行は明日の午前330分までありません」と駅員。

何かがおかしい。しかし、冷静に考えることにした。乗り継ぎや遠回りでもいい、目的の駅にさえ着けばいい……そして言った、「同じ行き先の別路線の急行なら他にあるでしょう。ちょっと調べてください」。駅員は不機嫌な表情をあらわにして、窓口を去り、ドアの向こうに消えた。10分、20分、30分……待てども駅員は戻ってこない。さらに時間が過ぎていく……。

ここで夢から醒めた。動悸が少し早くなっている。時刻は午前6時。夢の中で午前330分の急行に乗っていたら、ちょうど駅に到着した時間だ。夢の中で列車に乗り損ねた時の動揺は、現実の体験以上に大きく激しい。