イタリア紀行25 「天才の本領ここにあり」

ミラノⅣ

現地の3時間ツアー(50ユーロ)に参加すれば、『最後の晩餐』を見学できることを知ったのは後日のこと。事前予約していれば8ユーロだから、恐ろしいほど割高になる。名画を見そびれたのは残念だが、想定内でもあり、やむなし。とは言え、来た道をそのまま引き返すのも芸がない。サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会から南に数百メートルの『レオナルド・ダ・ヴィンチ記念国立科学技術博物館』に行ってみることにした。これは想定外の行動である。

多才なレオナルドの創案になる機械仕掛けの模型やゆかりの品々が数多く展示されている。モナ・リザや最後の晩餐に見るレオナルドもいいが、マルチタレントにこそレオナルドの本領が発揮されている――そんな印象を強くした。展示品と同程度にわくわくしたのは、博物館の構造。広々とした回廊や地下通路もあり、階上へ階下へ行き来し中庭にも出てみる。見学順もよくわからずまるで迷路のよう。ガイドブックによれば、11世紀の僧院の建物を極力生かす趣向を凝らしているそうだ。

中高生にとってこの博物館は格好の学習教材ゆえ、課外授業の団体が目立つ。さっきまで中庭でタバコをふかしていた男子が、展示を説明する先生に耳を傾けてノートを取っているのは不思議な光景だ。日本ならタバコを吸う高校一年生が社会見学中にノートを取るなどありえないだろう。ちなみに、イタリアでは16歳になれば喫煙はオーケーである。しかし、健康増進法によりレストランや公共の場での禁煙は浸透し、大人の間では一箱800円以上もするタバコ離れが進んでいる。

展示を見ているぼくのところに数人の男子学生が近づいてきて、「日本人?」と尋ねる。うなずくと、一人の少年が別の少年をくるりと半回転させてTシャツの背中を見せた。「これは日本語? どういう意味?」と聞く。そこには筆文字で「少年」と書いてある。イタリア語で少年は、“bimbo” “bambino” “ragazzo”と三種類くらいの言い方がある。目の前にいる156歳の少年にはragazzo(ラガッツォ)がふさわしいが、わざと幼児っぽいほうを告げてやった。「それはね、bambino(バンビーノ)だよ」。仲間は爆笑し、みんなでTシャツの男子を「バンビーノ、バンビーノ」とからかった。

そのあと迂回して、地下鉄なら一駅ちょっとの距離を歩いてスフォルツァ城へ向かった。スフォルツァ家の居城でありミラノ公国を象徴する要塞である。レオナルドもこの城の建築に関わったという。

ミラノに4泊したものの、丸二日間はベルガモとルガーノへ出掛けたので、見逃した名所・名画は数知れず。初日にとんでもないイタメシを食わされたが、二日目、四日目と夕食で訪れたSabatini(サバティーニ)には大いに満足した。二度とも給仕してくれたのは初老のアンジェロ。二度目に行くと名前も覚えてくれていた。レオナルドの最後の晩餐は拝めなかったが、ミラノ最終日の晩餐は極上の時間となった。 《ミラノ完》

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元僧院というだけあって落ち着いた佇まいの博物館。
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ひっそりとした地下展示通路は人気もまばら。ここならシャッターは切りやすそう。というわけで馬車の実物大模型を撮影。
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近代だが、自転車のセピア感は十分。前輪にもスタンドがついているのがおもしろい。レオナルドゆかりなのか単なる近代技術の紹介かはわからない。
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スフォルツァ城の前門。四方のすべてがしっかりと堅牢な城壁で囲まれている。1466年に完成。 
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スフォルツァ城の北西には広大なセンピオーネ公園が広がる。
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城内から見る壁。人と比較すればその高さがわかる。
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ミラノでの「最後の晩餐」に選んだ前菜。二十種類を越える料理からワンプレート分、好きなだけ盛り付ける。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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