コンセプトと連想力(2)

今回と次回のテーマは「コンセプトの創造」。今日はコンセプトと本質の関係、コンセプトと要素の関係についてです。最初に心得ておくべきこと。それは、コンセプトは自然界に存在しないという点です。コンセプトは人によって作られます。「コンセプトの発見」などとよく言いますが、正しく言えば、発見ではなくて創造なのです。

鷹と鷲のコンセプト

たとえば、タカと呼ばれる鳥とワシと呼ばれる鳥がいます。それぞれ漢字一字で「鷹」、「鷲」と書きます。英語でも“hawk”“eagle”を使い分けます。ことばでは区別されていますが、実はタカもワシも「タカ目タカ科」であり、専門家でも個体識別するのは難しいと言われています。

でも、何かが違うから別々の名辞――概念のことばによる表現――を与えたわけでしょう。本には「タカに比べて大型のものをワシと呼ぶ」などと書かれていますが、これこそまさにコンセプトが慣習的に取り決められた証です。鷹狩りはあっても鷲狩りはありません。もしかすると鷹を訓練しているのではなく、狩猟用によく訓練された鳥を鷹と呼んだのかもしれません。中央アジアからアラブ圏ではこれが「ハヤブサ」だったりします。

キャベツ、茄子、玉ねぎ、アスパラガスなどは「畑で作られる、副食となる植物」という共通項を内包しています。このように概括的に基本形態を捉えるのもコンセプトです。そして、このコンセプトの名辞を受け持つのが「野菜」ということば。野菜なので穀物とは概念上区別されています。但し、食べ物と言ってしまうと、野菜も穀物も同じカテゴリーに入ります。ブロッコリー、レタス、カリフラワーはキャベツの仲間です。名辞が違うのでそれぞれに異なったコンセプトを与えているはずです。ちなみに、キャベツだけでもいろいろな定義が可能で、「葉が厚くて大きく、巻いて球状となる」というのもその一つ。これが一般的な辞書の定義ですが、この記述からではお好み焼きに使う千切りのキャベツは連想しづらくなります。


ものの本質がコンセプトになることもありえます。「商品には固有のドラマがある」というレオ・バーネットの言は、見えていなくても商品には独自の本質が内在することを示しています。バーネットは広告業界のカリスマ的存在で、「テーマに没頭し、考え抜き、自分の予感を愛し尊ぶこと」をモットーにして、広告の仕事をコンセプトの掘り起こしと見なしました。「コンセプトを作る」とは本質に近づくことなのです。『新明解国語辞典』で概念の項を見ると、「『…とは何か』ということについての受取り方(を表わす考え)」と説明されています。これも「本質」ということになるのでしょう。

辞典の定義は通念や辞書編纂者の経験・知識に基づくことが多く、大きく変わることはほとんどありません。時々、ものや概念よりも先に辞書の定義が存在していたのではないかと錯覚することがあります。どこかプラトン的な普遍のイデアに似通っています。最初に本質があって、それが現象化しているにすぎないというのがイデア論。これは本末転倒ではないかとヘーゲルなどは反発しました。また、小林秀雄も「美しい花はある、花の美しさというものはない」と言いました。個々の現象とその感じ方はあるけれども、抽象概念はないという意味です。もし「花の美」がイデアのように先に存在していれば、花がその美に合わせて咲いているということになります。

コンセプトは本質的なのですが、普遍的な本質なのではなく、そのつど固有であり、TPOやコンセプトの担い手の主観に応じて変化します。先のキャベツの話に戻ると、たった一つの定義でキャベツのコンセプトを縛ることなどできません。畑で育つキャベツ、段ボールに詰めたキャベツ、スーパーで売られているキャベツ、冷蔵庫に入っているキャベツ、千切りになったお好み焼きのキャベツ、ロール状にして煮込まれたキャベツ……。これらすべてに共通する〈キャベツらしさ〉なるものを一つのコンセプトで言い表わすのは至難の業です。もしそうしようと思えば、結局辞書の定義と同じになってしまいます。

あるもののコンセプトを作るためには、そのものの要素に気づかねばなりません。本の要素、犬の要素、仕事の要素……。要素化とは分解することです。「分ける」は「分かる」です。要素化していく過程で主と副が見えてきます。同時に、分解作業にはリスクが伴い、ともすれば全体特性を見失うことになりかねません。要素が見えれば見えるほど、全体構想できなくなるというのは、ぼくの企画の仕事ではよくあることです。全体はつねに部分の集合以上であり、全体あっての要素であることを忘れてはいけません。

《続く》

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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