フィレンツェⅠ
今回から数回にわたってフィレンツェを振り返る。これまで紹介してきたヴェネツィアやシエナ同様、この街も歴史地区と呼ばれる中心地はおよそ2キロメートル四方に収まっている。
よく知られている通り、フィレンツェはルネサンス発祥の地である。当時を偲ぶゆかりの名所や芸術作品には事欠かない。同時に、ここは「花の都」とも呼ばれている。フィレンツェ(Firenze)はその昔、ラテン語で“Fiorentia”という名前だった。このことばの頭のFiore(フィオーレ)が花を表す。先般日本人観光客の落書きでニュースになった、フィレンツェ歴史地区の象徴であるサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂も「花の聖母寺」である。
日本からイタリアへの直行便はミラノかローマに向かう。だから、個人旅行の本にはこの二つの都市を拠点にした旅指南の記事が目立つ。しかし、世界遺産を含めた遊覧密度の高さで言えば、フィレンツェの立地はミラノやローマより優れている。なにしろシエナ、サンジミニャーノ、ルッカ、ピサ、アレッツォなどの街へ楽々半日旅行できてしまうのだ。
コンパクトな街だが至宝が凝縮している。過去2泊3日、4泊5日で二度訪れていたが、2007年3月に9日間滞在する機会があった。オルトラルノという、中心街から見ればアルノ川の南岸のサン・フレディアーノ地区のアパートに3泊。その後は、名所シニョリーア広場に面した隠れ家的ホテルが予約できたので、そこに5泊。
フィレンツェに泊まって市中をくまなく歩き、さらにバスと電車で周辺を巡る計画を立てた。計画というと緻密なようだが、天気と相談しつつ気の向くまま、足の向くままが基本。イタリア語で気に入っていることばに“passegiata”(パッセジャータ)がある。散歩という意味なのだが、当てもなく同じところを行ったり来たりというニュアンスが強いから「そぞろ歩き」がぴったりだ。今日は有名どころを概観するが、次回からのフィレンツェ紀行はそぞろ歩きに似て、行き当たりばったり。日によって、あるいは歩いてくる方向によってルネサンスの花の都が変える表情を見ていただこう。