二月、三月がずいぶん前のように思えてくる。えっ、もう五月? いかにも、気がつけば五月。気がつかなくても、カレンダーが五月に変わっている。
今日のこの陽気と空を背景にした青葉の見映えは、すでに春の終章を告げるかのよう。冷たいもので喉を潤したくなる昼下がり。この季節は同時に、今年に限っては――今年だけに限ってほしいが――「冠」の季節になった。
まばゆい新緑に心が動く。しかし、閉塞感に苛まれて、一編の詩を紡ぐような気分にはなれない。何もかもが鈍く、何もかもが重苦しい時はただそぞろ歩きするのみ。好きなように空を切り取ってみる。対岸の樹木も、萌黄、若草、松葉、青磁、孔雀、緑青……と、「よりどり緑」。
近年、四季が三季になってきた。春の時短が著しい。春よ来いと願っても、なかなか来ず、来たと思えば足早に去る。急いで夏のリハーサルをしてくれなくてもいいのに……。
五月の別れ
風の言葉に諭されながら
別れゆく二人が五月を歩く
木々の若葉は強がりだから
風の行く流れに逆らうばかり
(井上陽水)
五月に別れる人あり。ほとんどの人は五月に別れを告げる。いや、今は、月が変わると、五月のほうから一方的に別れたいと言い出してくる。やむをえない。重苦しさが軽やかさに変わることを願って、六月を迎える準備をしよう。