人にはそれぞれのスタイルがある。歩き方、食べ方、装い方、話し方、眠り方など、数え上げればキリがない。自然と身についたものもあれば、意識して自分流にしてきたものもあるだろう。遠目に米粒ほどの大きさにしか見えないのに、歩き方だけで誰々と特定できたりする。その他もろもろの型が組み合わさって本人独自のスタイルが生まれる。
ぼくたちは生まれてきたままでは留まらず、年を追って見た目や行動を変えていく。やがて一定の年齢に達すると、ありとあらゆる営みがカスタマイズされた状態になる。ところで、「どんな人になりたいか?」と若者に聞くと、「○○のような人」と答える。◯◯には有名人や身近で尊敬できる人が入る。ちなみに、「◯◯のようになりたい」と言うのは簡単だが、「◯◯のどんなところ」や「どんな◯◯」に落とし込まなければ意味がない。
次に、「あなたは自分の脳をどんな脳にしたいですか、育てたいですか?」と聞いてみよう。実際、ぼくはこんな質問をよくしたものである。するとどうだろう、たいていの人は即答しない(たぶん、できない)。おもむろに口を開けて、「処理能力の高い脳」や「考える脳」や「創造的な脳」などと答える。一つにくくれば「賢い脳」を求める人が多い。そこで、もう一度聞く。「個性のある賢い脳にしようと意識して励んでいるか?」 ヘアスタイルや服装や趣味やグルメに比べれば、望む脳へのこだわりがほとんどないことがわかる。賢い脳などと、漠然と期待しているようでは、まず賢くなれない。
脳に固定的なスタイルを期待するのはやめたほうがよい。衣装や振る舞い以上に、脳はTPOに柔軟に順応できるのだ。TPOに応じて千変万化してくれる脳が個性的な脳なのである。もっと具体的な脳の働きをイメージしてみれば、その方向に動いてくれる。たとえば、ある目的へ一目散に向かってばかりいると、脳は見えないもの、気づかないものを増やしてしまう。そこで、〈寄り道する脳〉や〈脱線する脳〉へと鍛え直す。
〈Before脳〉と〈After脳〉をセットで使う。前者は過去(使用前)を見る分析的な脳、後者は未来(使用後)をシミュレーションする脳。どちらも見ないと、目の前のエサしか見えない刹那脳になる。いずれか一方だけ見るのも偏りである。BeforeとAfterを同時に視界にとらえれば、脳が勇躍する。他に、知の気前がよくお節介な〈サービス脳〉がある。発想豊かでジャンプ力を秘めた〈飛び石伝い脳〉もあり、何でもすぐに出てくる〈引き出し脳〉もある。
脳を縦横無尽に働かせるためには、知のインプット時点が重要である。インプットは印象的に。少々デフォルメしたインデックスをつける。イメージとことばを組み合わせて情報を仕入れる。できれば異種どうしがいい。一情報だけを孤立させて詰め込むのではなく、他の情報といつでもドッキングできるよう住所不定にしておく。浮遊状態かつ具材がよく見える寄せ鍋のように。積んではいけない。広げておかなければならない。単機能ではなく、複合機能として脳を働かせようとすれば、インプットのスタイルを硬直化してはいけないのである。