自宅からオフィスまでは徒歩15分。八年前に引っ越してきてから定期券を購入しなくなった。それまではJRの定期券仕様のSMART ICOCA(スマートイコカ)。今もそれにチャージして使っている。
JR以外の私鉄や大阪市営地下鉄でも使えるからICOCAで困らない。しかし、地下鉄に乗る頻度が高いし、地下鉄のPiTaPa(ピタパ)は銀行引き落としでチャージ不要、特典もあると聞いたので、変更してもいいかなと思った。先日、地下鉄の改札を出てこのことを思い出し、改札にいる駅員にPiTaPaのことを尋ねることにした。もう一度書くが、発音は「ピタパ」である。
「ピタタのことでお聞きしたいのですが……」と口を開き、その瞬間、ピタパをピタタと言い間違ったことに気づく。言い直す前に駅員が先に反応した。眉間にシワを寄せて、「えっ、ピ、タ、タ?」と、鼻から音を抜いて聞き返してくる。ちょっと小馬鹿にしたような口調とイントネーションだった。
言い直してもよかったが、ちょっと間を置いた。すると、駅員が「ピ、タ、パのことですか?」と聞く。聞いて、返事も待たずに、引き出しからパンフレットを取り出して「必要事項を書いて郵送してください」と告げた。休日に一言ケチをつければ不快の二乗になりかねない。「はい、どうも」だけでその場を去った。
無知ゆえの言い間違いではない。単に言い間違ったのである。目の前の人物が岡野だとわかっていて、つい「岡田」と言ってしまったのと同じである。にもかかわらず、「あなたは知らないのか?」とでも言いたげな表情と発音だった。
きみは地下鉄の職員である、誰かが「ピタタ」と言ったら、それは「ピタパ」以外の何かであるはずがない。「えっ、ピ、タ、タ?」などと怪訝な顔などせずに、即座に「あ、ピタパですね」と対応すれば済む。ぼくがまるっきり違う言葉、たとえば「パダラのことでお聞きしたいのですが……」と聞いていたらなら、「えっ、パ、ダ、ラ?」と聞き返してもよろしい。
公務員として別に大きなミスをしたわけでもない。文字で再現すれば非礼だと断定もできない。しかし、こんな単純な言い間違いに対して取るべき返答や態度ではない。その場に居合わせる者だけが感じる不快なニュアンス。アタマと性格が悪いとマナーを仕込んでもどうにもならない一例である。