語句の断章(39)四字熟語

四字熟語には難しそうなのがいろいろあるが、「四字熟語」という意味そのものはわかりやすい。説明するほどのこともないので、どの辞書も「漢字四字で作られる成句」という、ありきたりの語釈で済ましている。それに続けていくつか例を挙げる程度である。

ここで質問。上の写真は手元に置いて時々活用している四字熟語辞典。さて、この辞典に「四字熟語」という四字熟語は収録されているだろうか? 

答えはノー。おびただしい四字熟語の元締めのはずの「四字熟語」という表現は、他の熟語と毛色が違い、風景や故事や通念や思想などのエピソードを持たない。「四字熟語」という四字熟語に関して辞書の編者は洒落たことを書けないのである。


それにしても、たった四字の構成で自然や風物や現象などを見事に詰め込んでいることに驚く。メッセージの中身は濃いが、四字熟語は決して見栄を張らずに、見たままを素直に文字にして余韻を残す。余韻は長く続く。

春夏秋冬しゅんかしゅうとう〉 四季折々をつなげば一年が過ぎ一年が巡る。

花鳥風月かちょうふうげつ〉 文字として絵として自然の風景をすべて包む。

深山幽谷しんざんゆうこく〉 深い山奥と谷合いに未だ見ぬ自然の相貌がある。

山紫水明さんしすいめい〉    日の光が射して山は紫色にかすみ水は清く澄む。

雪月風化せつげつふうか〉 冬の雪、秋の月、夏の嵐、春の花が自然をかたどる。

万水千山ばんすいせんざん〉 山も川も多くして山なみも川の流れも連綿と続く。

山容水態さんようすいたい〉 山の姿と流れる川の行き先に美しい山水を思う。

上に列挙した四字熟語は、いずれも季節や風景をコンパクトに言い表しながら、しかも悠久の時間を刻む自然界の壮大なパノラマを彷彿とさせる。