ある種のコンペティションでは、審査員の採点の合計点数で最優秀を決める場合が多い。入札や評価型スポーツ(スキーのジャンプ、フィギュアスケート、体操など)は点数方式だ。スポーツの場合は個々の技術に関して細かな基準があるが、イベントや作品などのコンペでは審査員の主観的な評定に依存する。
審査員によって見方や点数の付け方は様々なので、1位と2位の採点が大差になる場合も僅差になる場合もある。全審査員の採点を単純に合計する方法では、たった一人の審査員が大差を付けてしまうと残りの審査員の採点がまったく反映されないことがある。このやり方を是正するために、採点結果から最高点と最低点を除外して合計点を算出する方法が採られる。
しかし、審査員が誰に投票するかという票数方式でもなく、また最高点・最低点除外という方式でもなく、単純に採点を合計して最高得点者を最優秀とするコンペが慣習的におこなわれている。5人の審査員によるAとBという二者コンペの採点結果をシミュレーションしてみよう。
審査員① A=90点 B=60点
審査員② A=82点 B=85点
審査員③ A=71点 B=80点
審査員④ A=81点 B=83点
審査員⑤ A=88点 B=89点
単純合計すると、A=412点、B=397点となり、AがBを上回る。審査員①の大差採点がかなりのウェイトを占めた結果だ。ちなみに、AとBの最高点(それぞれ90点と89点)とAとBの最低点(それぞれ71点と60点)を除外した後の合計点は、A=251点、B=248点となり、これもAがBを上回る。ここでは除外のメリットが出ていない。いずれにせよ、票数では上記の赤色で示す通り、Aが1票に対し、Bは4票を獲得している。大差であろうと僅差であろうと、Bの方が審査員団に支持されていることになる。
上記のような単純合計方式でおこなわれる審査を数十回依頼されてきたが、最高点・最低点除外方式に変えたとしても同じ結果になることが多い。したがって、上記のシミュレーションは例外的ではない。ただ、点数を合計してしまうと、個々の審査員の一票に託した意思は弱められる。自分の意思が合計点の中で掻き消され、極端な採点をした審査員一人の採点が結果に反映されてしまう。
と言うわけで、票数で決めたこともある。しかし、審査員数を偶数にしたため問題が起こった。4者コンペで2者に2票ずつというケースが生じたのである。協議しても誰も自分の1位指名を譲らなかった。結局、全員が2位指名していた参入者で妥協せざるをえなかった。後味が悪かった。
議論を2者対抗でおこなうディベートの試合の勝敗判定は合理的である。審査員は3人、5人、7人などの奇数。審査用紙は様々な項目を点数評価するが、全員の採点を合計しない。各審査員の採点が大差であろうと僅差であろうと、各審査員は自分の採点で点数が上回ったサイドに1票を投じる。引き分け判定はなし。だから、必ず3票対0票、4票対1票、5票対2票という具合に勝敗が決着する。負けたサイドに投票しても、それは決して死に票にならない。点数と違って、票の痕跡が残るからである。自分が票を入れた側が勝とうが負けようが、潔く結果を受け入れることができるのである。合計点方式では、審査員①の存在によって「自分がいてもいなくても同じではないか」という空しさだけが残る。