雑談中に降って湧いたような話はたいていすぐに忘れるが、稀にしっかりと記憶に残るものがある。記憶に残るから意味のある話とはかぎらず、とりとめのないよもやま話だったりする。しかし、記憶に残ることを評価して、その種の雑話は一応ノートに書いておく。備忘のつもりはまったくないが、わざわざ書いておくから余計記憶に残る。
🖊 『孤独のグルメ』で井之頭五郎が料理を口に運ぶ。実にうまそうな顔をしてつぶやく。
「おお、こうきたか……」
一口目でしか使えない心の内のつぶやき。こうきたかが「どうきたか」は人に伝わらないが、これこそがつぶやきの理想だ。一度これを使うと、「うまい」や「おいしい」では物足りなくなる。
🖊 知り合いの名前を並べて、変な人だと思う人に✔の印を入れていくと、ほとんど全員にマークがついてしまった。変でない人は近くに――そしてたぶん――知らない世界にもいないのだと思う。「みんなちがって、みんないい」に倣えば「みんな変な人で、みんないい」。
🖊 モノでも料理でも絵でもいい。AとBを並べたり近づけたりして、目に見えない両者の関係性を位置で示す。一方、見た目の色で単純に合わせることもある(近い色で合わせたり、近くはないがバランスの良さで合わせたり)。意味合わせと色合わせ(または)配置と配色。
🖊 ある県のアンテナショップを時々覗く。店内のカウンターで地酒の飲み比べができる。ビールが売りのパブではクラフトビールの飲み比べ、ワインショップやデパートではワインの試飲比べができる。ぼくと同い年だった知人は、医者の処方するまま、まるで薬の飲み比べをしているようだった。1日に7、8種類、全部で10数錠を服用すると聞いて驚いた。その甲斐もなく数年前に亡くなったが、病気のせいか薬のせいかはわからない。