語句の断章(68)結構

いつもの辞書ではなく、久しぶりに類語辞典を手に取る。「結構けっこう」は多義語で、大きく3つの意味がある。辞書の用例を自分なりにアレンジしてみた。

① 構成・趣向。「この建造物の結構は壮麗だ」とか「文章の結構がなかなかよい」というのが元来の用法。
② 優等。「結構な出来映えだ」、「結構な品物をいただきました」というような使い方をする。
③ 十分/不十分。「この道具で結構間に合う」や「彼の英語は結構通じる」。「意外なことに」とか「想像以上に」というニュアンスが感じられる。

建物や文の構成が始まりで、褒めことばとして「結構がいい」などと言ったようだ。これが変化して、たとえば「結構なお庭ですなあ」とか「旅も食事も結構づくめだった」などと使うようになった。しかし、「結構なご身分だこと」という評になると、本意か皮肉かがわからなくなる。このあたりから意味が二重化してきた。

やがて、上記の例のように、褒めと、不要/お断りの両義を持ち合わせるようになる。結構な味ですと満足を示すこともできれば、もう十分ですという意味でも使える。なぜ結構は多義後になったのか?

国語学者、岩淵悦太郎の『語源散策』にヒントが見つかった。昔は「すぐれた結構」と言っていたのが、やがて表現を短縮して結構だけで「すぐれた結構」という意味になったという。そして、使う対象が建築や文章だけでなく、天気や料理や人柄などに広がっていった。

なるほど、表現を短縮化し、かつ適用範囲をどんどん広げていけば、意味が曖昧になるのもやむをえない。こうして、結構はイエスとノーの両義を持ち、意味の解釈は相手に委ねられることとなった。

曖昧ついでに「結構毛だらけ猫灰だらけ」などとも言う。意味よりもただ単に語呂を楽しむ表現として使われてきた。ちなみに、ありがとうございますの意の「ありがた山のかんがらす」。大河ドラマ『べらぼう』の蔦重つたじゅうこと蔦谷重兵衛のあのせりふも、これとよく似た語呂遊びである。

投稿者:

アバター画像

proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です