ヴェネツィアⅡ
観光の中心スポットであるサンマルコ広場まではホテルからほんの数分。カフェや散策目当てに何度も足を運べる。それ以外に何か格別の楽しみ方はないだろうか。前泊地のミラノにいる時からこんなふうに4泊5日をどう過ごそうかと構想を練っていた。持参していた『迷宮都市ヴェネツィアを歩く』(陣内秀信著)がインスピレーションを与えてくれた。世界でもっとも美しいと謳われるサンマルコ広場に海側から近づくという一つの提案がとても気に入った。
この本で固有名詞もしっかり覚えたつもりだった。しかし、イタリア語の名称は、宗教人であれ建物であれ地名であれ、「サンタ」と「サン」を冠するものが多い。実際現地に降り立つと、区別もつかなければ、しょっちゅう言い間違いをする始末だった。
にもかかわらず、サン・ジョルジュ・マッジョーレ島だけはしっかり覚えていた。サンマルコ広場からわずか数百メートル沖合いにあるこの島内に同名の教会があり、その鐘楼のテラスからの眺望を見逃してはいけない。
さて、海側から広場へのアプローチはもちろん船しかない。水上バスの3日券は乗り放題で約3000円。これを使って、リド島へ向かい、そこから折り返して広場へ向かう。リド島はヴェネツィアのみならずイタリア全土における有数のリゾートであり、ヴェネチア映画祭の会場として知られている。滞在中、同じルートで二度そこへ行った。もちろん乗船・下船を繰り返して、その他の路線の大半も遊覧し尽くした。
ご当地に諺がある。ヴェネツィア方言で“A tola no se vien veci.”と言い、「食事の間は歳をとらない」という意味だ。「船に乗っている間は歳をとらない」という新しい諺を作ってもよいくらい、青地に浮かぶ街の佇まいに飽きることはない。
前回ともども、ヴェネティアの写真にうっとりです。今更ながら、青と茶の配色が絶妙ですね。特に今回の写真は空の青と水の青のコントラストがなんとも言えません。デジカメでの空色の再現性が実物よりかなり劣ることを考えると、実際の空の色、水の色がどれだけ青だったのかを想像せずにいられません。
個人的に「船」は学生時代の貧乏旅行の手段だったので、人いきれのムンムンする船室で雑魚寝状態とのトラウマから良い思い出がないのが現実です。でも、秋風に吹かれながらのこのような船旅の機会があれば、「船」へのイメージも良いものになっていただろうに、と。
大阪の水上バスでも、ちょっと無理ですよね。
イタリアの青は”アッズーロ”で有名。残念ながら、文字では表せない色合い。いずれこの週刊イタリア紀行で取り上げるつもりのシエナは、”シエナブラウン”と呼ぶしかない茶色の街です。しかし、かつて日本でも一般的な「青」「水色」以外にも、杜若(かきつばた)、瑠璃(るり)、群青(ぐんじょう)、露草(つゆくさ)、浅葱(あさぎ)などの繊細で微妙な色合いが表現されていました。ヴェネツィアの運河と空はこれらをはじめとする十数種類の青が織り成すアナログコーディネーションなのだと思う。それをデジタルで押さえるにはやはり限界もあるでしょう。