筆記具は眠っている欲望を刺激する。ただ見るだけで、新たに手に入れたくなる。使うのか持つだけなのかはその際どうでもよく、少し贅沢かもしれない筆記具に手を伸ばしてしまう。
何十本もの万年筆やボールペンを買い込んでおきながら、ろくに出番も与えないで目新しいペン類に目を向ける。これはもう病気である。誰もが一度は患い、生涯にわたって治癒しづらい病である。
文具店やデパートの筆記具売場に足を向けないのが唯一の対処法だが、その意識と反比例するように無意識のうちに売場に近づいていく。
万年筆を使い始めた十代、まずまず使っていた二十代は黒インクだった。有名作家の青インクで書かれた原稿用紙を見てから、シェーファーに青を充填した。そこから青インクに憑りつかれてしまった。万年筆の数が増えると、青インクの種類が増える。困ったことに青だけでも、肉眼では違いが判別できないほどの多種のインクが売られている。
紙によって滲みや発色が異なって見える。デジタルで再生しても、同じ名称のインクの色が変わる。青びいきとしては、紙を変えペンを変えて色味を試してみたくなる衝動に駆られる。そして、性懲りもなく、よく似た色のボトルを買ってしまうのだ。
文字ではなく、ベタッと塗れば違いはわかる。写真の左上はプルシアンブルー。右上がフロリダブルー。左下はコバルトブルー。そして、最もよく愛用しているのが右下のロイヤルブルー。これ以外にもやや緑がかったブルーもいくつか引き出しに入っている。いやはや、青インクは魅惑的で罪な存在である。