色彩、すなわち色の彩

ここ数年、「情報誌の編集技術」というテーマで研修をおこなう機会がある。文章の書き方、デザイン、紙面づくりなど、必要最小限の知っておくべき技法を網羅して講義する。講義だけでは十分理解できない話なので、プロジェクターを使って事例を見せる。

パワーポイントであらかじめ作成した色合いが、研修会場に設置されているプロジェクターで忠実に再現されないことがある。それで致命的なまでに困ることはないが、稀に部屋の明るさによって文字が見えづらくなることがある。今までで一番困ったのは、繊細に再現しないと意味を成さないカラーコーディネーションの見本を使った時だ。

再現性が悪く、キーワードとして掲げた「シック」「抑制」「味わい深さ」「円熟味」などがさほど感じられない色味になってしまった。思わず、自分のノートパソコンを持ち上げて画面を見せたが、後ろの席の受講生からはパソコンの画面は見えづらい。この一枚は消化不良のスライドになった。

☆     ☆     ☆

パソコンの色合いを精細に再現できるプロジェクターの開発に取り組む技術者の話題を、先日のテレビで見た。デジタル技術なのだが、工芸職人の手業てわざそのものである。恐ろしく手間暇がかかる色合わせの作業だった。徹底的に凝ろうと思えば、そんなプロジェクターを自ら携えて会場入りするしかない。

デジカメでもスマホのカメラでも実物と写真には誤差がある。誤差は思いのほかいい方向に出ることがあるが、赤が奇抜に出たり青の深みが足りなかったりというのは毎度である。色の素人だが、色の再現がいかに難しいかは想像できる。

「思うに、色彩の模倣こそ最も困難な問題である。なぜならそれは、賢い者をも欺いて、見せかけと本物とを間違えさせるからである」(エル・グレコ)

光学のスペシャリストだけの悩みではない。色彩の専門家である画家にとっても終生つきまとうテーマである。と言うわけで、今後も粛々とパワーポイントを作成していくことには変わらないが、色のあやまで深入りしない程度に講義内容を収めておくのが無難なようである。