【出発と発出】
(例)緊急事態宣言が「発出」された。耳慣れない用語だが、これが事案終息への「出発」になることを願う。
『新明解』にも手元の類語辞典にも発出という見出しはない。別の辞書には類語として出発が挙がっているが、「緊急事態宣言を出発」と言い換えるには抵抗がある。よくわからないけれど、発令でもなく命令でもなく発布でもないから、発出なのだろう。
【作家と家作】
(例)ベストセラーで売れっ子になった「作家」には、書けなくなった時に備えて「家作」の一つや二つを所有している人がいるらしい。
家作ということばを知ったのはバンカースに興じた小学校低学年の頃だった。給料を蓄えて土地を買い、その土地に家を建てる。そのマス目に入った他のプレイヤーから家賃をもらう。当時のバンカースはある種の不動産ゲームだった。
【野外と外野】
(例)かつてはすべて「野外」でおこなわれていた野球。今では球場の半数以上が屋内ドームになったから、「外野」の守備に就いても空は見えない。
野外スポーツには自然現象に左右される妙味があった。外野手は風に悩まされながら捕球をするのが当たり前だったのだが、ドーム野球になってからは外野フライ捕球時のスリルが半減した。
【温室と室温】
(例)「温室」の温は、温度の温ではなく、あたたかいを意味する。これに対して、「室温」の温は、あたたかいの温ではなく、温度の省略である。
植物園の「温室」に入ると、真冬なのに大汗をかくことがある。熱帯ゾーンの温室では温度も湿度も年中一定だが、わが家の「室温」は年中変化する。
【陸上と上陸】
(例)「陸上」のある地点から別の地点に移動しても、「上陸」などとは言わない。上陸と言うかぎり、空か海から目指す陸地に到達するのである(参考:「ノルマンディー上陸作戦」)。
陸上の動物の起源は海という説が有力だ。好奇心のある動物が海から上陸して陸上に棲みついた。したがって、正確に言えば、海の動物はまず上陸動物になり、その後定着して陸上動物になったのである。陸上動物になった人間は夏になると海で泳ぎ、疲れたら上陸して陸上動物に戻る。
シリーズ〈二字熟語で遊ぶ〉は二字の漢字「AB」を「BA」としても別の漢字が成立する熟語遊び。大きく意味が変わらない場合もあれば、まったく異なった意味になる場合がある。その類似と差異を例文によってあぶり出して寸評しようという試み。なお、熟語なので固有名詞は除外。