在宅の仕事が苦手なこともあるが、かなり恵まれた職住接近なので毎日事務所に出てくる。仕事はある。ただ、発注者にも諸事情があってスムーズに進まない。そんな日の昼下がりに本を――じっくり読むのではなく――拾い読みする。『書物から読書へ』。漫然とページを繰り、気に入った見開きに視線を落とす。ほどなく瞼が重くなり半覚醒状態に陥る。
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本は、読書家の対象になるばかりでなく、書棚に収まって読書家の後景になったり読書家を囲んだりする機能も持ち合わせている。
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読まねばならないという強迫観念から脱した時にはじめて読書の意味がわかる。見て選び、装幀やデザインを味わい、紙の手触りに快さを覚え、書棚の背表紙を眺めることもすべて読書だということ。
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放蕩三昧する勇気なく、無為徒食に居直れず、かと言って、日々刻苦精励できるわけでもなく、おおむね人は無難な本を手に取って中途半端に読んで生きていく。
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急ぎ足で読むことはない。速読ほどさもしくて味気ない読書はない。著者が一気に書き上げていない本をなぜ一気に読まねばならないのか。
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旅もままならない今日この頃、いつもと違う本との付き合い方をしてみればどうだろう。本からのメッセージが伝わってくるかもしれない。本の希望、本の励まし、本の快癒、本の精神、本の所縁、本の愉快、本の幸福……。