今日取り上げる「快刀乱麻」は、語句の断章シリーズで取り上げる七つ目の四字熟語である。四字熟語には生まれた歴史や背景があり、今では理解しづらい故事由来のものも多い。「快刀、乱麻を断つ」という成句がわからないわけではないが、快刀にも乱麻にもすぐにはなじめない。
こんがらがった麻は知らないが、もつれた毛糸は見たことがある。よく研ぎ澄ました刀はどこかの名刀展でガラス越しに見た。したがって、もつれた糸を一刀のもとに断ち斬る所作も何となく想像できる(そうだ、一刀両断という四字熟語もある)。ところで、糸という対象に向かう形相や目つきは、人に向ける時のような鬼気迫るオーラを放つのだろうか。
もつれて手に負えない麻の糸はこじれた問題や紛糾した物事の比喩として使われている。快刀は手際よく処理して解決する方法の比喩である。しかし、解決と言っても、糸が元に戻るわけではない。糸は細かく切られて使いものにならなくなる。解決の解は「ほどくこと」であるのに、ほどきもせずに断ち斬って、それを解決と呼んでいいものか。
もつれて乱れた麻を一本一本ほどくのが面倒だ、しかも捨ててしまっても未練がない。そういう時に快刀を揮えばもつれに対する苛立ちも解消する。快刀乱麻とはそんな感じの熟語のようだ。決してスマートでさわやかな問題解決ではない。
もつれた網を腹立たしく斬り捨てる漁師はいないと思う。網のもつれを少しずつほぐして再び使えるようにしているのをテレビで見たことがある。斬り捨てるのではなく、辛抱強く糸をほぐして元に戻す……そんな四字熟語はないのか。快刀乱麻の対義語を調べてみたら「試行錯誤」が出てきた。そうか、試行錯誤は自分との長い闘い、快刀乱麻は相手との一瞬の闘い。ちょっとすっきりしたが、決して快刀乱麻の心理ではない。