夕方からよく鼻をかんでいた。喉の奥のほうが痒い。何とか眠れたが、朝になると鼻がグズグズ、痰がよく詰まるようになった。熱は36.6℃、身体はだるくなく関節痛もない。自分では使ったことはないが、こういう症状を誰かが「鼻風邪*」と言った。
*鼻風邪は急性鼻炎の別名。ウイルスや細菌、埃や粉塵、化学物質などが鼻の粘膜に感染し、急性の炎症を起こしている状態。原因の約9割がウイルスである。
これは耳鼻咽喉科の案件だと思ったが、ひとまず懇意にしているかかりつけの内科の医師に診てもらうことにした。耳鼻咽喉科の診察券が見当たらなかったのも内科を選んだ理由の一つだ。
「今日はどうされましたか?」
「何だか鼻風邪のようなんです」
「自分で勝手に鼻風邪などと決めつけたらいけないですよ」
医師、カルテを見る。
「これまで鼻炎の所見をしたことはないですな。鼻風邪だったらウイルスが原因ですがね……。後で測りますが、熱は?」
「平熱です」
「咳は?」
「ほとんどないです」
「喉の痛みは?」
「痛みはないです。痒みはあります」
「鼻水や鼻詰まりは?」
「鼻はグズグズしていて、喉に痰がたまります」
「鼻風邪とか鼻炎だとか言って来られる患者さんが増えていますが、コロナも流行していますよ。検査しましょうか?」
「PCR検査ですか?」
「いや、抗原検査なら結果がすぐにわかります」
そう言って、医師は鼻腔に細い綿棒を入れた。ウェっと軽くえずきそうになった。数分後。
「コロナじゃないですね。喉を見せてください」
「アアア~」
「ほんの少し腫れています。アレルギー症状を抑える鼻炎の薬、痰を出す薬、そして念のために鎮痛解熱の薬を処方しましょう。とりあえず4日分。毎日朝昼夕の食後に各1錠飲んでください」

翌週。
「よくなりましたか?」
「鼻水と痰がよく出ました。服用3日後からよくなったような気がしますが、今週中に完治したいので、もう少し飲んでみます」
「では、同じ薬を4日分出します」
喉の痒みが取れた。鼻炎はよくなったような気がするが、相変わらず鼻をよくかみ、痰をよく出している。鼻と喉が連携プレーをして鼻水と痰を出しているのがよくわかる。
鼻と喉から異物を追い出すように促すのがもらった薬の作用なら、先週違和感を覚えた時点で鼻水が出て痰が出たのは自己免疫が働いたからだろう。あのままでもよくなったかもしれないし、やっぱり薬が効いてくれたのかもしれない。ともあれ、今回はクリニックの内科医が症状を診て薬を処方した。耳鼻咽喉科の医師なら症状をどう診て何を処方しただろうか。処方の違いに興味津々だ。早くよく似た症状に罹りたいという衝動に駆られている。
㊟本作は一部事実に基づくフィクションです。