逆説的「スロー&プアー仕事術」のすすめ

どちらかと言えば、ぼくはスローライフ主義者である。スローライフと主義は相容れないかもしれないが、便宜上こう書いておく。スローライフ主義を貫くためには、仕事が早くなくてはいけない。ゆえに、ぼくはスピーディビジネス主義者でもある。スピーディビジネスなんて和製英語っぽいが、ファーストビジネスと言うと、ファーストフードからの連想で「早いが安っぽい仕事」のように聞こえてしまう。

時間をゆっくりかけたいスローライフ主義と仕事をできるかぎり早くこなすスピーディビジネス主義は弁証法的である。どちらが手段でどちらが目的かなどという野暮な認識を超越したところで両者はちゃんと成り立つ。なぜこんな主張ができるのか。それは、「仕事がグズな人は生活で苦労する」「仕事が早い人ほどいい仕事をする」「仕事上手は生活上手である」などがおおむね正しいからである。

スローライフの実践方法よりもスピーディビジネスの実践方法のほうが説きやすくわかりやすい。もっと説きやすくわかりやすいのは「仕事が遅い、仕事が下手」の最大公約数的原因である。いろいろな現場で仕事の実態を見てきたし、教育研修においても演習や実習への取り組み姿勢を観察してきた。その結果、ぼくは仕事を、ひいては生活をダメにする「間違いのないコツ」を発見した。題して『スロープアー(遅くて下手な)仕事術』(ほんとうは何十ヵ条にもなるのだが、今日のところは十ヵ条に絞った)。


1 実力以上に強がってみせろ
世の中、ブランドである。正直に「私は50点人間です」などと言っては損だ。上げ底・背伸び・見栄っ張り・虚勢など何でもオーケー。とにかくよく見せないといけない。

2 他人に厳しく自分に甘く
ノルマは軽めに。60点の仕事を上出来だと考えよう(大学でもそれは「可」なのだから)。自分の仕事は一日遅れてもいいように時間を稼ぎ、他人に任せている仕事は一日早めに仕上げさせる。

3 仕事の出発点でじっくり時間を使え
もし5工程の仕事ならば、最初の工程が一番重要。だから、そこをクリアするまでしがみつくこと。仕事は部品の寄せ集め。全体を見通すビジョンなんて役に立たない。

4 行動よりもよく考えろ
下手に動いて下手な結果を出すよりも、まずは考えてみる。たとえそれが「考えているふり」であっても、軽率な行動よりはましである。  

5 日時を明確にするな
ゆめゆめ時刻で期限を設定してはいけない。そんなことをすると、理不尽に追及されてしまう。「来週に」「今日じゅうに」というのが正しく、アポも「いずれ近いうちに」と曖昧にしておくのがいい。  

6 イエスかノーを明言するな
慎重にイエスかノーかを決める。二者択一の岐路では焦らず騒がず判断を急がない。モラトリアムで済ましておけば、後日どちらにでも転ぶことができる。急いては事を仕損じると言うではないか。どんな約束でも守りきるのは不可能なのだから、小さな約束くらい破ってもかまわない。

7 アマチュアとプロを都合よく使い分けろ
相手が格上、かつ仕事に自信がないのなら「まだ勉強途上なので」と言い訳をしておく。相手が格下ならば、堂々とプロフェッショナル顔をすればいい。真のプロにはプロとアマの二面性がある。  

8 「時間はタダ、いくらでもある」と信じろ
無理して今日じゅうに仕上げなくてもいい仕事がある。いったん決めても変更すればいい。明日は必ず来るわけだし、時間は自分の資源でタダみたいなもの。何とかなるものだ。

9 同時に複数の仕事をするな
所詮、自分の情熱、自分の思い以上の仕事なんてできないのだから、自己愛で生きるのが一番。二兎を同時に追ってはいけない。仕事は、優先順位ではなく、受けた順番に一つずつこなすのが正しい。

10  ばれないように手を抜け
「仕事はマメに、きめ細かく、とことん凝れ」と理屈を言うのがいるが、無視すればよろしい。大雑把で手を抜いても顧客がそれで満足ならいいのだ。そもそもずっと手間暇かけていたら心身が持たない。


逆説的にお読みいただいたであろうことを切に願っている。上手く読み取れる人は仕事のできる人だろう。グズで仕事のできない人は誰のことが書かれているのかピンとこないだろう。えっ、このままで終わると、本気で「スロープアー」を薦めているみたい? なるほど、そう理解される可能性なきにしもあらずだ。それはまずいので、「いずれ近いうちに」フォローすることにしよう。     

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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