ガイドブックを頼りにハイド通りをハァハァと息を切らせながら上がってきた。人だかりしているその場所がロンバード通り。ここはあまりにも傾斜がきついので、1920年代に意識的に道をくねらせた。どうくねらせたかと言うと、5メートル下っては道を曲げ、また5メートル下っては道を曲げた。これを何度か繰り返して勾配を少しでもゆるやかにしようとしたのである。
勾配はゆるやかになったものの、車は曲がった直後に次の急カーブに備えねばならない。この曲線の坂を下るすべての車は歩くより遅い。赤いレンガを敷き詰め、カーブを描く道路に沿って色とりどりの鮮やかな花々が花壇を飾りたてている。この一画に住んでいる人の車の往来も見かけたが、観光で訪れている大勢のドライバーたちがここを通りたがる。運転しながらも、前の車がつかえるとすぐさまカメラを構えているドライバーもいる。
ぼくはカメラを構えながら、ゆっくり急勾配の階段を下りては立ち止まりして写真に収めた。家にも工夫がされており、眼下に海岸が見晴らせるので住むには恰好のロケーションだと思う。しかし、観光シーズンはさぞかし迷惑なことだろう。意識して観光スポットにしたわけではなく、住民便宜のための工夫だったはずだから、自宅周辺を観光客がたむろするとは思わなかったに違いない。


光景➌



