コンセプトと連想力(8)

最終稿になりました。「コンセプトの絞り込みと一言化」というテーマでまとめにしようと思います。コンセプトづくりに四苦八苦したら、腕を組んで黙りこむのではなく、ことばをアイスプレーカー役にするに限ります。氷を砕くようにフリーズした思考を解体するのです。ブレーンストーミングの作業では、アイスブレークを比喩的に使い、発想の硬直状態をほぐす潤滑油効果の意味で使います。用いることばは極力斬新な表現であるのが望ましく、陳腐な表現や常套句ではアイデアの行き詰まりを打開できません。カント哲学者の中島義道は『概念的生活』の中で次のように語っています。

(概念とは)言語によって捉えられたものであり、概念的把握とは言語によって捉える把握の仕方である。」

子どもの表情や性格を、笑顔の子どもとか素直な子供などと表現して済ませがちですが、実はかなり大雑把な捉え方であり言い回しです。このような曰く言い難い人の資質や喜怒哀楽に関しては、適材適所で表現しづらく、つねに不満がつのります。食べ物や飲み物の感想がその最たる例であり、言いたいことを精細に描写する忍耐がないと、結局「うまい」というアバウトな表現で場をしのいでしまいます。

コンテンツイメージ・コンセプト・表現

絞り込みとはエッセンスを抽象することなのですが、これは他要素の捨象を意味します。コンセプトを生み出すにあたって、イメージとして思い浮かぶありとあらゆるコンテンツを拾うことはできません。潔く何かを度外視する意思決定が必要です。何がベストかはわからないまま、コンセプトをことばで仮止めすることになります。そのとき、迷うほどさまざまな語り書きうる言語表現の選択肢がありえます。イメージの題材を根拠にして、ことば探しをするのがコンセプトづくりの作業ということになるでしょう。


一枚のリーフレットを想定します。そこには、ある車を広告するための特徴や一般情報が盛られています。

920日・21日大試乗会、特別金利ローン実施中、カーナビ標準装備、クラス最高の静粛性、GFPドイツ安全基準金賞受賞、側面衝突基準対応、ダイナモ搭載パワーエンジン、UVカットグラス標準装備……

捨てがたい気持ちのあまり、これらすべてを拾っていてはコンセプトは定まりません。とにかく捨てなければならない。多忙な顧客の視点から、消費者の心情から、市場傾向から、そして何よりも売り手にとってのメッセージ効果の視点から、捨てることを英断します。足し算ではなく、引き算によって一言化されたコンセプトが生まれます。当然、賛否両論はつきまといます。最終的には根拠と説得にすぐれたコンセプトが選ばれることになります。

「想像」と「空想」という、よく似た二つの概念・表現が存在するのは、両者に差異があるからです。ある概念・表現と別の概念・表現とには差異がなければなりません。そして、おもしろいことに、差異があるのは類似性もあるからなのです。

ともすれば、ぼくたちが平凡なアイデアや陳腐な発想で手締めをしてしまうのは、ことばを渉猟しようとする知的スタミナ不足と語彙不足のせいです。さもなければ、リスクを回避しようとして前例踏襲に落ち着くからです。この結果、流れに棹差し、無難でなおざりな正解探しで終わります。差異のあるコンセプトづくりにあたっては、何が何でも個性的かつ一回性であろうとする意気込みをユニークさの源泉にしなければならないのです。

《終》

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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