カフェの話(6) 街の表情

パリやローマの街を歩いていると、「えっ、こんなところに!?」と驚くような場所にカフェやバールが出現する。路地裏にも、人気ひとけのない閑散とした通りにも、絶対に採算がとれないであろう街外れの一角にも。もしかして条例によって数十メートル四方につき一軒の立地が義務づけられているのではないか。そう勘繰りたくなるほどだ。

ぼくが生まれ育った大阪の下町も、昭和30年代から40年代にかけてはそんな風情だったのかもしれない。住宅が密集する町内や商店街の入口に、喫茶店が二軒、三軒と立ち並んでいたものである。しかし、イタリアの小さな、たとえば人口1万人ほどの街でもそんな光景に出くわす。バールを一軒通り過ごしても、ほんの少し歩けば別の店が現れる。

その街の人々には決まって行きつけの店がある。その店に行けば顔馴染みがいる。中には新聞を読んだり無駄話をしたり長居をする客もいるが、立ち飲みカフェやバールでは、挨拶と注文を一緒にして一言二言交わし、コーヒーを飲んだら再び挨拶して店を出て行く。その一言、二言はどこの街でもよく似通っていて、「いつまでも綺麗だね」とか「アントニオはどうした?」などの類い。常連たちはマンネリズムに平気である。

『パリ 旅の雑学ノート』はパリ通の玉村豊男のエッセイ。冒頭、いきなり「カフェの構造と機能」で始まり、カフェの話だけが100ページ以上続く。パリを知らなければマニアックな切り口だと思ってしまいそうだ。ちなみにこの本のサブタイトルは「カフェ/舗道/メトロ」なのだが、数あるパリ名物の中でもこの三点にぼくは納得する。街の表情の主役はもちろんカフェだが、通りと地下鉄も興趣をそそる。

557.JPG
どこを歩いてもよく見かけるパリの街角カフェ。
611.JPG
ソルボンヌ近くのカフェ。歩道とテラスに境目がない。
629.JPG
まるで街路や舗道と一体化したようなカフェ。
520.JPG
メトロの出入口。このような風情を残すにはたいへんなエネルギーがいる。

投稿者:

アバター画像

proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です