仕事柄、ショップカードやリーフレットをひとまず持ち帰る。店や商品のコンセプトをどのように打ち出しているか、どんな工夫をしているかをチェックする。この時代、企業や店はウェブ上の広報や販促に注力しているが、それと併行して紙媒体も用意しなければならない。つまり、メディアが多様化した分、コストが増えている。
駅構内に張り巡らされたポスターにも目を引くビジュアルやハッとするコピーがある。しかし、ポスターは持ち帰れないので、気に入ればその場で撮り収める。同じく、看板や案内表示にも目配りする。よくできたのもあるし、脱線気味のB級も少なくない。おもしろ看板やB級看板ばかりを集めたコレクションブックが発行されていて、何冊か持っているが、人にはそれぞれの思いやコンセプトの切り口があるのだと、感心したり溜め息をついたり。
大阪ローカルのテーマパークにひらかたパークがある。通称「ひらパー」。ここのバーチャル園長が、ご当地枚方市出身のあの岡田准一だ。起用されてすでに4年。園長就任直後のポスターではおどけた格好をした岡田がこう言ったのである。
ワイがッ ひらパー兄さんでおま!
「大阪らしさ」と「岡田らしくなさ」の絶妙なマリアージュではないか。自分のことを「ワイ」と呼ぶ大阪人は今ではほとんどいないし、いるとしてもごく一部の年配者に限られる。大阪弁の中でも河内系で、枚方は北河内地方に位置する。とどめの「おま」が決断の助動詞だ。普段は耳にしないことばで、若者は使わない。稀に年配の商売人が発することはある。最近耳にしたのは、「この店に酢昆布はありますか?」と尋ねたぼくに、昆布店の爺さんが「酢昆布、おまっせ」。人にもモノにも使えて「ある、いる」の意を持たせる。岡田のポスターは「ぼくがひらパー兄さんです」と河内系大阪弁で言っているのである。
ひらパーは電鉄会社の経営であり、駅構内、車内におびただしいポスターが掲示されている。現在いたる所に目につくのがこのポスターだ。
せや!
逆に、ひらパー。
いやはや、実によく練られていて、深いニュアンスが感じられるではないか。「せや」は「そうだ」の意味だが、思い立ってこう発する前に多少の逡巡の時間が過ぎていたことを思わせる。
夏が近づいてきた。遊びに出掛けたい。山へ海へと遠出したい。あるいは、都会的な喧騒に満ちた遊びの場に飛び込みたい。若者たちはわくわくしている。しかし、小さな文字で「小鳥たちのさえずり、木々のざわめき……」と書いてある。視点を変えて静かなひとときを過ごしてみてはどうだろうと思いを巡らす。
そこで「せや!」と何かに気づく(もうこれだけで十分にローカル的にはおもしろい)。せや! ここ、ひらパーでいいではないか……。特に他の候補が示されたわけでもないのに、若者ことばの「逆に」を逆利用してさらに可笑しさを増す。ひらパー兄さんは、テーマパーク好きの消費者の心理をよく読み解く、かなり達者な語り部なのである。