指示に従わない人たち

プロ野球が開幕した。ご多分にもれず、自宅で購読している全国紙の一つが「順位予想」を掲載した。同紙のスポーツ記者5名がセ・リーグの順位、別の記者5名がパ・リーグの順位をそれぞれ1位から6位まで予想している。スポーツ記者の予想に格別の関心があるわけではないが、「どれどれ」とばかりに目を通してみた。朝食のトーストを齧りながら、ボールペン片手に少し遊んでみた。

1位に予想されたチームに5ポイント、以下、2位に4ポイント、3位に3ポイント、4位に2ポイント、5位に1ポイント(6位は0ポイント)を配分して、各リーグを予想した5人の記者の合計ポイントを足してみたのである。結果は次のようになった。

【セ・リーグ】 巨人21ポイント、中日19ポイント、阪神17ポイント、ヤクルト13ポイント、広島4ポイント、横浜1ポイント。昨年同様に、ペナントレースの予想は三強の様相を呈している。

【パ・リーグ】 楽天17ポイント、ソフトバンク16ポイント、日本ハム15ポイント、西武13ポイント、オリックス7ポイント、ロッテ7ポイント。拮抗した評価であるが、楽天予想に首を傾げ、昨年の日本シリーズの覇者の最下位予想にも少し驚いた。

ここ数年、ぼく自身の中でプロ野球離れが少しずつ起こっているので、各チームの新戦力もよく知らないし、球団勢力図もわからない。では、プロ野球の記者たちならよくわかっているのだろうか。そう思って、各記者の二行寸評を読んでみた。多分にセンチメンタル気質に突き動かされているコメントにがっかりした。優勝予想の根拠はほとんどなく、特定チームのファン心理に近い願いがあるのみだ。応援の一票を強引に正当化するために、後付けで寸評を書いたかのようである。


セ・リーグ予想を担当しているA記者は「層の厚い巨人が本命」と書いている。どの層が厚いのかよくわからないが、まあいいとしよう。問題はその次である。「開幕問題で経営者が下げたファンの支持を、選手がプレーで取り戻して」。これは巨人を優勝だと予想する根拠にまったくなっていない。まるで巨人ファンの願いそのものではないか。このA記者は2位に阪神を挙げているが、巨人ファンなのだろう。「選手がプレーで取り戻して」などという応援メッセージは、ファンでなければ絶対に書けない。

同じくセ・リーグ担当のT記者も「ヤクルトがダークホース。元気が出る好ゲームを期待します」と書いている。「期待など書くな、予想を書け」と言いたい。

いや、この二人のセ・リーグ担当記者の、予想よりも期待に傾いた程度はまだましだ。これに比べればパ・リーグの5人はひどいもので、戦力分析による予想をしていないのである。全員に占師か応援団員に転職するように勧告したい。

専門編集委員でもあるリーダー格らしきT記者: 「今年ばかりは楽天に頑張ってほしいので」。
別のT記者: 「がんばろう東北の合言葉のもと、楽天には躍進を期待したい」。
M記者: 「楽天には星野新監督効果と選手の発奮を期待します」。
O記者: 「楽天の意地にも期待したい」。
極めつけはW記者: 「予想ではなく、切望です。だって、プロ野球って夢を追うものでしょ。がんばろう! 日本」。

何たる「予想ぶり」だろうか。もう一度書くが、そのコラム中の一覧表には「プロ野球順位予想○○」というタイトルが付いているのである。「プロ野球順位希望× ×」なのではない。すなわち、パ・リーグ担当記者の全員が、順位予想という「指示=業務」を不履行しているのである。特にW記者など確信犯である。よくもぬけぬけと「予想ではなく、切望です。だって」と書けたものだ。だってもヘチマもない! 切望を書きたいのなら、本紙の読者欄に投稿すればいいのである。

こんなふうに指示に従わない連中がそこかしこに増えてきた。もしかすると、指示の意味がわからないため従えないのかもしれない。たとえばプロフィールの「趣味」という項目に、「趣味というわけではないですが……」と断りを書く連中がいる。そして、「少々演劇をやっています」と続ける。それを趣味と言うのだ。「氏名欄」には氏名を、住所欄には住所を、生年月日欄には誕生日を素直に書けばいいのである。

職業人であるならば、編集委員が記者たちに指示したであろう「プロ野球順位」の予想の根拠を記せばいいのである。仮にぼくが「たかがプロ野球」と見下げれば、記者たち全員が大声で「されどプロ野球!」と反論するに決まっている。それならば、読者のためにもう少しまっとうな分析と予想に励もうではないか。まあ、こんなことくらいで、購読を中止して他紙に乗り替えるつもりはないが……。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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