粉飾するイメージ、言い訳する言語

JRのチケットをネットで買うが、あれを通販とは呼ばないだろう。予約の時点でカード決済するものの、手元には届けてもらえない。出張時に駅で受け取るだけである。注文したものが宅配されるという意味での通販は、最近ほとんど利用していない。ただ一つ、お米だけホームページ経由で買っている。そんなぼくが、デパートに置いてあったチラシを見て、衝動的にオンラインショッピングしてしまった。お買い得そうなワインセレクションである。カード決済はすでに終わっているが、手元に届くのは一カ月以上先だ。

会員登録したついでにメルマガ購読欄にチェックを入れた。それから10日も経たないのに、あれやこれやとメルマガが送られてくる。数えてみたら9通である。読みもせずにさっさと「削除済みアイテム」に落としていったが、件名に釣られて「珍味・小魚詰合せセット」のメルマガを開いてみた。重々わかっていることだが、見出しが注意喚起の必須要件であることを「やっぱり」という思いで確認した次第である。

さて、そのメルマガ情報だ。一つずつ順番に珍味と小魚の写真と文章を追った。そして、カタログなどでよくあることだが、あらためてそのよくあることが奇異に思えてきたのである。北海道産鮭とば、北海道産函館黄金さきいか、国内産ちりめんじゃこ、ししゃも味醂干し、国内産うるめ丸干しの五品が写真で紹介され、それぞれの写真の下に注釈がある。商品個々の特徴はレイアウトの真ん中から下半分のスペースにまとめて書かれている。


個々の写真の下の注釈を見てみよう。鮭とば――「画像は200gです」、さきいか――「画像は250gです」、じゃこ――「画像はイメージです」、ししゃも――「画像はイメージです」、うるめ――「画像は150gです」。いずれも画像に関しての注意書きになっている。「実際は異なりますよ」が暗示されている。

では、実際はどうなのか。鮭とば――200gではなく100g、さきいか――250gではなく125g、じゃことししゃも――実物がイメージとどう違うのか不明、うるめ――150gではなく100g。要するに、写真は実物をカモフラージュしているのである。実際の売り物とは違う写真を見せ、しかも「これらの写真は虚偽です」と種明かしをしている。あまりいい比喩ではないが、超能力者が空中浮遊してみせ、自ら「これはインチキです」と言っているようなものだ。

パソコンやスマートフォンの画面でも「画面ははめ込み」という注がついていることがある。上記の「画像はイメージです」も不可思議で、イメージには日本語で画像という意味もあるから、「画像は画像です」または「イメージはイメージです」と言っているにすぎない。ここで言うイメージとは何なのか。「実物ではないが、実物らしきもの。実物を想像してもらうためのヒントないしは手掛かり」という意味なのだろう。では、なぜ実物通りの写真を見せないのか。これが一つ目の疑問。次に、実物とは異なる写真を掲げておいて、なぜ実物の説明をするのか、つまり、なぜ相容れない要素を同一紙面で見せるのか。これが二つ目の疑問。

一つ目の疑問への答えはこうだ。実物が貧相なのである。だから実物よりもよく見える写真や実物の倍程度増量した写真を見せるのだ。これはイメージの粉飾にほかならない。二つ目の疑問への答え。格好よく見せることはできたが、注釈不在ではクレームをつけられる。だから「本当は違います」と申し添える。次いで、「本当はこうなんです」と実際の量を明かす。嘘をついた瞬間「すみません、ウソでした。本当は……」と告白しているだらしない人間に似て滑稽である。

写真もことばも嘘をつくが、広告においてはイメージの上げ底を文章が釈明することが多い。信頼性に関しては、文章に頼らざるをえないのだ。もっとも、こんなことを指摘し始めると大半の広告は成り立たなくなってしまうのだろう。だが、自動車の広告で写真を見せておきながら、「画像はイメージです」とか「画像はタイヤが四輪です」などはありえない。実物が超小型車でタイヤが二輪だったら、それは自転車であってもよいことになる。珍味・小魚だからと言って大目に見るわけにはいかない。ぼくには、「画像はイメージです」と言われっ放しの「ちりめんじゃこ」と「ししゃも味醂干し」の実物がまったく想像できないのである。だから、そんなものを注文したりはしない。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

「粉飾するイメージ、言い訳する言語」への2件のフィードバック

  1. パッケージ業界でも「写真はイメージです」とよく使われます。
    「耳が痛いな~」と思いながら聞いてました。
    ・・・違うかな?
    「目に染みるな」と思いながら読んでました。
    感動を生みだすためには本来、「事前期待を超える」ようにしないといけないんですけどね。
    事前期待を上げて、実物でがっくりするような手法は私はあまり好きではありません。
    ☆☆☆
    私は19:00の約束に遅れそうな時、このように電話をかけます。
    「19:20くらいになりそうです」
    そして、19:10に到着すると、「急いできてくれたんだね、有り難う」となることが多いです。
    人はついつい、いい恰好をしたいので、
    「19:05くらいには着けます」なんて言ってしまいがちですね。
    それで19:10に着いてしまうと、「19:05って言ったじゃないか!2度も遅刻して」となります。
    私は「事前期待を下げる努力」をしています(笑)

  2. 誇大訴求は広告につきものです。売ろうとしているのだから、ある程度は許容範囲でしょう。今夜は焼肉に行くつもりですが、文章で「ジューシーでうまい焼肉」と書いてあって、実際に食べたらそうでなかったとしてもやむをえません。特に形容詞は証明もできなければ反証もできませんから。でも、写真とスペック(仕様)の嘘はダメですね。言い訳不可能ですから。証拠が残りますから。
    居酒屋のテレビ取材。コメディアンのレポーターが注文。実物の商品とメニューの写真を見比べて、店長を呼び出す。店長、ドキドキ不安顔。ところが、クレームではなく、「店長、この写真は控え目すぎるよ。実物のほうがずっと量も多いし、うまそう」という褒め言葉でした。こうでなければいけません。誰に対しても第一印象ではいつも満点を取るが、数ヵ月後にブーイングの嵐という知り合いがいます。この逆は、元暴走族や元ヤンキーの先生たちです。絶対に得をしていると思います。
    ぼくは60点くらいの第一印象でスタートし、お付き合いを重ねるごとに点数を上げるようにしています。一気に上げると先が持たないので、ほんの少しずつ印象を上げるのがコツです。

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