考えごとが飽和状態になると、手っ取り早く本でも読もうということになるが、これが案外役に立たない。むしろ悪循環を招くことさえある。仮に本からヒントの種を得たとしても、自分の脳内畑で育つ見込みは小さい。その脳内畑がすでに行き詰まっているのだから。
本は他力。他力は早晩自力に変換する必要がある。軸足はやっぱり自分の方に置かないといけない。本の前にもう一頑張り自力で試みる。一番手っ取り早いのは自分自身が気づきを書いた過去のノートである。本のページをめくる前に、自家製ノートのページをめくるのだ。今の自分と過去の自分には脈絡がつきやすい。
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ことばを抜きにしては何を考えて何を成すべきかがなかなかわからないゆえ、ことばを日々の生活と仕事の原点に置いている。癖と言えば癖、性分と言えば性分、そんなふうに生きてきた。行動が重要だとわかっていても、まずはことばからということになる。
お前からことばを消せば何になる この世にあっても生ける屍 / 岡野勝志
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世界はタテマエとホンネでできていて、両者の間に喜怒哀楽が織り込まれて紡がれている。
言うべきことや言いたいことを言う人生は、おおむね6勝4敗。言うべきことや言いたいことを見送ったり我慢したりする人生は、おおむね4勝6敗。一見、大きな差ではない。しかし、タテマエの処世術よりはホンネで生きるほうがうまくいく確率が高い。但し、自分本位のホンネは1勝9敗で、自己保身のタテマエの2勝8敗よりも劣る。数字に根拠はない。アバウトな観察経験にすぎない。
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空きテナントの多いビルを想像してみる。活気がない。客がまばらで閑散としている。それに流れもない。売手は客待ちするばかり。余力がありながら徐々にパワーダウンしていく。たまたま店を覗いた客を逃さないようにしつこく追いすがる。ちっぽけな知識にしがみつく脳のようだ。こんなふうに脳を使っているとアイデアは枯渇し、持ち合わせの知識も色褪せて錆びてしまう。
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無間地獄ならぬ、無言地獄というのがある。その深みにはまると、無機的なノイズが顔を覗かせる。
おはようとまたねの間にことば無し ごく稀に出る「ええっと」と「あのう」 / 岡野勝志