美味しさと不味さ

Barbaresco2006 Fontanafredda web.jpgのサムネール画像イタリアのピエモンテ州には「ワインの王様」と称されるバローロという有名なワインがある。これに対して、同じくピエモンテ産のこのバルバレスコは「ワインの女王」と謳われる。決して安物のワインではない。店にもよるが、4,000円から5,000円くらいするのではないか。
通常2,000円までの安くてうまいワインを探し、プロにも勧めてもらっているぼくとしては、ブランドと価格の両面で大いに期待した一本である。先週、来客が来ることになり、直前に冷蔵庫に入れた。しかし、みんなほろ酔いになり、これには手がつかないまま。いったん冷やしたワインを常温に戻すのはご法度である。次の来客を待たずに封を切ることにした。

封を切った当日。飲む直前に冷蔵庫から取り出したせいか、よく冷えていて香りが弱い。つまみは赤ワイン向きのものを用意していたが、チーズとの相性も思ったほどではない。体調のせいか、室温のせいか、やっぱり冷えすぎていたせいか、いや、そもそもこんな感じの味なのか……原因などわかるはずもないが、買い手としては期待外れの印象を露わにしづらく、複雑な心理状態に陥った。グラスに二杯飲んで、再び冷蔵庫に収めた。
翌日。メインをぶっかけうどんにして、和を中心のおかずを用意した。そして、前日に引き続き飲んでみることにした。するとどうだ、コルクが抜かれて一晩過ぎたせいかどうか知らないが、打って変わって芳醇なうまさが口で広がった。さすがバルバレスコだという調子で賞賛はしなかったものの、満足のゆく香りと味であった。理由を求めても意味はないが、いったいどういうことなのだろうか。
美味おいしいものは美味しい、不味まずいものは不味い」でいいはず。ところが、美味しいものは美味しいでいいのだが、美味しいはずのものが期待外れに美味しくないとき、いや、むしろ不味いとき、不味いものは不味いでケリをつけにくい。なぜ不味いのか、なぜ不味く感じるのか、何が不味くさせているのかなど、つい理由が欲しくなってしまうのだ。不味さの科学は美味しさの科学よりも、おそらく不可解であり不確実なのだろう。