ゴールデンステート滞在記 ロサンゼルス⑥ ビバリーヒルズ

別に予定をびっしりと立てていたわけではない。しかし、限られた時間では何かを捨てなければならない。なにしろ車という「軸足」が人頼み。ダウンタウンの様子は車の中からシティウォッチングするにとどめた。車を止めて、ビバリーヒルズ方面を少々散策。豪邸区域、すなわち億万長者たちの住む市街だけに、住宅価値を減じるものはすべて排除されているように思える。美しい街並みを維持するために、住民と市当局による環境保全への取り組みと情熱は並大抵のものではなさそうだ。

警察署の前にシティホールがある。1932年に建設された8階立ての建物。庁内を見学させてもらうことにした。一階と二階は自由に移動でき、建設局の部屋にも入れる。相談光景の撮影は控えたが、市民相談の窓口付近には一切書類や書棚は見えない。一対一でじっくり座りながら話をしている。何だかコンサルティングオフィスのようだ。人口の数が違うとはいえ、日本の市役所の味気なさと雑然としたさまとは対照的である。

ぼくは車を所有しないので、都心のなるべく便利な住みかにこだわってきた。たとえば駅から徒歩数分以内とか。しかし、住居空間や住宅様式に関するその他のこだわりはまったくない。だから、机と本棚さえ置けるスペースがあれば小さなアパートの一室でも平気である。そんなぼくが、自分の生活様式とは無縁の超高級住宅街を車内からゆっくりと見て回る。

ビバリーヒルズの豪邸巡りをするとき、いったいどんな視点をもって観察し、どのような感想を漏らすべきだろうか。月並みかもしれないが、この種の邸宅は間違いなく己のために建てられ構えられたものではないと思う。人は自分のためだけにこれだけの広さの土地にこれだけの豪奢な館を築くはずがない。強く他者や社会を意識しないかぎり、ここまでの贅を尽くそうとはしないだろう。なるほど、そういう意味では、ヨーロッパ中世の貴族たちも現在のビバリーヒルズの成功者たちも「権威の発揚」と「見せびらかしの心理」という点ではあまり大きく変わらないように思えてきた。

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映画やドラマのシーンによく出てくるビバリーヒルズ警察。
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警察周辺のストリート。
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ビバリーヒルズのシティホール(市役所)。
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意匠を凝らした市役所エントランスの天井。
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清潔でデザイン性にすぐれた男性トイレ。
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ビバリーヒルズ界隈の入口にあたる公園。
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庭と道の区別がつかない豪邸。
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ビバリーヒルズの典型的なストリート。
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一見するとホテルと見間違うような邸宅がそこかしこに「乱立」している。