語句の断章(50)「加減」

加減ということばから真っ先に想起するのは、学生の頃なら四則計算の足したり引いたりの加減。ついでに、「いい加減」が口癖だった教師も思い出す。口調や顔つきもついでによみがえる。

数学なら足したり引いたりの多少に縛りはないが、熱や水や調味料や圧力になるとデリケートに調整してほどよい状態にする必要がある。数学離れをした今では、加減と言えば、塩・砂糖・醤油などの調味料の量や味のことであり、強火・中火・弱火などの調理のことを連想する。

「匙加減」を辞書で引くと、薬剤の微妙な調合をおこなうことと書いてある。料理用語になる前は、医者が匙で薬剤をすくって混ぜていた。だから、「匙加減一つでどうにでもなる」とは、患者を生かすも殺すも医者の薬の量次第という意味だった。

現在、加減は多義にして多用に使われる。勝負事に弱い相手には少し手加減をしてあげるし、風呂には人それぞれの好みの湯加減がある。風邪気味で身体の加減がかんばしくなくなったり、待ちに待った春先には陽気の加減で体調が思わしくなくなったりする。仕事やミッションを途中で投げ出すといい加減なやつだと言われ、ついには堪忍袋の緒が切れた上司に「いい加減にしろ!」と怒鳴られる。

いい加減のいい・・は元は「い」だから、文字通り好ましい意味だったが、否定的なニュアンスが込められるようになった。単発で「いい加減」と書いたり言ったりすると、テキトウとか無責任という意味に取られる。肯定的に使おうとするのなら「好い加減」と書き、「い加減」と言えば誤解されずに済む。そうそう、あの昔の教師は「いい加減」ではなく「よい加減」と言っていた。