漁港の街を歩く

隣県の和歌山に出掛けた。7年ぶりになるが、その時は仕事だった。今回は和歌山市の漁港の風景を眺めようと思い立った次第。

ところで、海際の入江に続く急峻な丘に集落ができ、世界一美しい海岸の街と称されて世界遺産になったのが南イタリアのアマルフィ。ナポリとカプリを23年前に訪れたが、長距離バスはサレントから内陸を走ってプーリア州に向かったため、サレントの先の海に面した街、ポジターノとアマルフィを眺めるチャンスに恵まれなかった。

アマルフィ(イタリア/カンパーニャ州)

和歌山市のホームページで「日本のアマルフィ」と形容されていた漁港を知る。雑賀崎がそれ。「さいかざき」と読む。メトロ→JR快速で和歌山駅へ、そこから巡回バスに乗り換えて雑賀崎まで、自宅からの所要2時間半。街歩きの歩数は約15,000歩と大したことはないが、復路は1時間か2時間に1本のバスに合わせるのに少々苦労した。

雑賀崎の地形は写真で見るアマルフィに似ている。住居が肩を寄せ合うような密度の高い集落、急な坂、狭い路地と階段、高台からの桟橋と港の眺望。雑賀崎にはアマルフィのような優雅さはないが、漁村の日常生活と素朴な風情が感じられた。

よく知られた山部赤人やまべのあかひと万葉秀歌がある。

若の浦に潮満ち来れば潟を無み葦辺をさして鶴鳴き渡る
(わかのうらに しほみちくれば かたをなみ あしへをさして たづなきわたる)

雑賀崎はその和歌浦わかのうら景勝地の一角を占める。雑賀崎を詠んだ、藤原卿ふじわらのまえつきみの一首も万葉集にある。

紀伊の国の雑賀の浦に出で見れば海人の燈火波の間ゆ見ゆ
(きのくにの さひかのうらに いでみれば あまのともしび なみのまゆみゆ)

昼間なのであいにく漁師の燈火も小さな漁船も波間ごしに見えなかったが、高台の沖見の里からの眺望と海辺からの住居群の景観を撮り収めた。

細い坂道を上り切れば集落と海の眺望が開けた。
ブラタモリだったら岩肌を見てウンチクが語られたはず。
小1時間かけて隣町の和歌浦のバス停を目指す。

食事処を探したが、魚料理のメニューが見当たらない。漁港で獲れたての魚が買えると書いてあったが、朝に出た船が戻ってくるのはおおむね午後3時。そんなには待てない。魚料理を楽しみにしていたのに、エーゲ海料理の店で豚肉のスペアリブを食べることとなった。