新版の辞典

手元にある辞典を見ると、【格言】とは「人間の生き方を端的に言い表わした古人の言葉」とある。この古人は単に昔の人ではなく、偉い昔の人なのに違いない。格言が名言や金言と銘打たれる時は、だいたい最初に発した人物がわかっている。どこの誰が言ったかわからないが、民間伝承されて生き残っているものを、どうやら「諺」と呼んでいるのではないか。

ところで、「手元にある辞典」と書いたのは『新明解国語辞典』である。仕事柄いろんな辞書を引くが、よく引くのは『新明解』(三省堂)と『広辞苑』(岩波)と『類語新辞典』(角川)だ。

その『新明解』の第八版が昨年11月に出たのを知っている。今使っているのは第六版。第七版を買いそびれて今に至っているので、第六版をかれこれ15年以上使ってきたことになる。まだ手元にないが、第八版は買うつもりにしている。


版を重ねても何から何まで変わるわけではないので、新しい版に関心がなければ、古い版のものを使い続ければいい。それでゆゆしき問題が起こることもない。しかし、新しい版が出たら欲しくなる。辞書の、垢にまみれていない新品のページをめくるのは快楽なのだ。

『新明解』には他の辞典にはない「異端臭」が漂うことがある。すべてとは言わないが、語釈に思い切りのよさや斜めっぽさを感じるのだ。異端色を極限化して定義すると、ピアスが先駆けた『悪魔の辞典』風になる。悪魔の辞典は「辞典」ではなく「視点」である。新しい見方、部分をデフォルメした解釈を提示して楽しませる読み物。ユーモアだから、目くじらを立ててはいけない。若い頃に悪魔の辞典遊びをしたことがあった。そのほんの一部。

【人生】人生に目的はない。ただ日々歩むものである。
【幸せ】この言葉の前に人は「より」をつけたがる。
【社会】社会を上手に生きる方法を教えた社会科の授業は未だかつてない。
【知識】これが頭の中に
少量かつ偏って閉じ込められたら固定観念と呼ばれる。
【時間】時計がある時は主役の座を針と文字盤に奪われ、時計がない時にはじめて実感できる瞬間の集合概念。

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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