〈パーキンソンの法則〉を持ち出すまでもない。生産性の低い空気が充満する職場では、仕事の振りをする態度が目立ち、大した仕事をしていないのに仕事をしている気になっている。問題を分析するばかりで、いっこうに解決しようとしない。したがって、仕事の達成感は乏しく、いつまでたっても質的向上は望めない。
変化・スピード・多様性は現代ビジネスの不可避的なノルマである。課題は山積している。仕事とはその課題を解決することだ。迅速かつ鮮やかに仕事をこなすプロフェッショナルがめっきり減ってしまった。
上記の文章はぼくの『プロフェッショナル仕事術(旧版)』のプロローグの一節である。パーキンソンの法則はシリル・N・パーキンソンが1957年に経済誌”エコノミスト”で発表し、一躍世界の注目を集めた。半世紀以上も前の法則であり、時代も激変したはずなので、もはや通用しなくなっていても不思議でない。だが、この法則は色褪せていない。つまり、相も変わらず人は同じような仕事ぶりを繰り返しているのである。
パーキンソンの第1法則は、「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて費やすまで膨張する」というもの。多忙時であっても5時間でこなせるルーチンワークなのに、暇を持て余していると10時間費やしてしまうのだ。つまり、質とは無関係に仕事が5時間分膨張したのである。
黒字の年でも赤字の年でも従業員の数が同じで、勤務時間も増減しない。たしかに、高度成長の萌芽期にはそういう傾向が見られた。そして、仕事の規模が縮小しても、行政の職員の数は増え続けた。部や課の単位では部員や課員が増えるのを歓迎したのである。
昨今も同じような現象がある。たとえば杓子定規にワークシェアリングを実施すると、どうでもいい仕事やムダがどんどん増えていく。それはそうだろう。当面の仕事のために雇ったのではない人材に何がしかの作業を分与するのだから。二人でできていた仕事を三人で分ければ、トータルの所要時間は増えるに決まっている。仕事にスピードと効率が考慮されなくなる。
少数精鋭などどこ吹く風、という企業が今も少なくない。決まった時間内に三つの仕事をこなしていた人間が、仕事が一つに減っても同じだけの時間働いている、あるいは働いている振りをする。いつの時代もいい仕事をしているのは、多忙でスピードのある人なのである。