矢印について改めて考えることはまずない。分かり切っているつもりだから、今さら調べる気にもならない。そう思っていたが、試みに『新明解』にあたってみた。「行く先などを示すための、矢の形の印」と書いてある。察した通りだった。
矢印には双方向型(↔)と一方向型(→)がある。一方向の矢印は向きを変えて、おおむね8つの方向を示す。東西南北の4方向と、北東、南東、南西、北西の4方向である。それ以上細かく分けてもあまり意味がない。ちなみに、矢印の線は→、⇒、⇨、⇢などで表せるし、矢じりにもいろんな形がある。
今もあるのかどうか知らないが、メトロの駅ホームに一方向型の矢印を描いた紙が貼ってあった。矢印の下に「大阪城」の文字。こんな配置である。
矢印の指し示す方向は、土地に不案内な人にとっては「なぞなぞ」に近い。「北東の方向に大阪城あり」と了解はするが、階段を上って改札を通り、再び階段を上って地上に出れば、あの矢印の先がいったいどこを向いていたのかはもはや不明である。スマホのナビ機能を使いこなせないと右往左往すること間違いない。
漢字の標識よりもアルファベットの標識のほうがオシャレに見えるのは多分に偏見である。見慣れた表意文字に対して、表音文字のデザインに新鮮な印象を覚えるにすぎない。異国では初めて見る地名の文字は意味を持たないから、標識はビジュアル優位な存在になる。
シンプルなデザインと色遣いも標識の魅力だ。パリに滞在した折に標識の写真をかなり撮り収めている。方向を示す機能を持つ矢印だが、街中で精度の高い矢印に出合うことはめったにない。ほとんどの矢印は「だいたい」である。外国では特にそうだ。
ここから何メートル先か何キロ先かを記していない標識も多い。方角も適当、わかるのは「こっち」と正反対の「あっち」の違いだけ。繊細なニュアンスを感じさせない標識の矢印。そのいい加減さが街歩きをスリリングにしてくれる。