語句の断章(38)第一印象

「人は第一印象がすべて」などと言う専門家がいる。しかも、まことしやかに心理学方面の根拠を並べる。主張する本人は自分が捉える印象の眼力については何も語らない。印象は、印象を与えている人の属性ではなく、印象を抱く側の感覚ではないのか。

きれいなサシの入った、いかにも高級な黒毛和牛のステーキ。「わ、とけそう。おいひ~」と、一口目で第一印象を評する。もう何度も食べてきて承知しているが、肉は最初の一口で決まる食材ではない。食事時間中、他の食材や酒との相性を通じて印象づけられるのだ。ちなみに、印象とは「見聞きしたり体験したりすることを受け止めて刻まれる感覚」である。

ある程度の時間経過を経て刻まれるべきものを、最初に接する数秒ほどの直観で片付けてしまうのが第一印象。第一打席でホームランを打ったバッターに即時にホームラン王の称号を与えるようなものだ。そのバッターがその後に3打席連続三振するのを見て、「早とちり」の愚かしさを知ることになる


第二印象や第三印象について書かれた一文を見たことがある。第一印象がよくて第二が悪く、しかし第三がよければすべてよし。他方、第一も第二もよかったが、第三で悪い印象を与えておしまい。しかし、三度と言わず、永いお付き合いをするつもりなら第X印象まで判断を先送りできる。オバケも第一印象は恐くても何度もお目にかかれば楽しくなるかもしれない。

昨今の広告は一瞬の「つかみ」に勝負をかけるようになった。見た目のデザインと配色、短いキャッチフレーズ、意表をつくビジュアル。コツコツと理詰めで説得せずに手を抜く。それでうまくいくことが多々あるから、広告主も制作者も第一印象づくりしか考えない。とりあえず結果オーライということになっている。

このような瞬間つかみや消費者の第一印象に期待し続けていくと、総合的な広告の質の向上は望めない。広告だけではない。何事においても瞬殺的なウケねらいのトークや写真も消耗品のように廃棄されていく。第一印象優先に勝ち組が多いが、生き急ぎしているような気がしてならない。

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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