この半月で古本を十数冊買った。まだほとんど目を通していない。それどころか、ここ数年で買い求めた本の半数すら読み通していない。将来読む気のある未読本はオフィスでも自宅でも机に向かう背中側の棚に無分類のまま積んである。仕事の手が止まったので、何冊か引っ張り出してことば遊びのページを拾い読みしてみた。
📖 『誹風柳多留』は「はいふうやなぎだる」と読む。江戸時代中期から幕末までほぼ毎年刊行されていた川柳の句集。全部で167編が刊行されたという。川柳なので季語はないが、この時期にありそうなユーモラスなものを二句。
本降りになって出ていく雨宿り
今だ! と踏ん切りをつけて雨中に飛び込めば、さっきまでの雨のほうがずっとましだったということがある。夕立やゲリラ豪雨時の雨宿り。小降りになるタイミングを見極めるのは容易ではない。
かみなりをまねて腹がけやっとさせ
腹掛けは昔の職人の仕事着の一つだが、自宅で子どもにさせる腹掛けは夏場の寝冷えを防ぐ肌着だった。暑いから子どもは嫌がる。「腹掛けしないと雷様にへそを取られるぞ」と親父は脅したのである。冬よりも夏によく腹巻をさせられた覚えがある。
📖 『街頭の断想』というエッセイ集に河合隼雄の「ふたつよいことさてないものよ」と題した一文がある。
ふたつよいことは、さて、ないものです。ひとつよいことがあると、ひとつわるいことがある。どんなによいことでも、その裏には、あんがい、わるいことが含まれています。
そのかわりに、ふたつわるいことも、あまりないものです。どんなにわるいことでも、よくよく見ると、それは何かよいことをあわせてもっていることが、わかってきます。
この話のもとは次の七七七五調の都々逸である。
〽 二つ良いこと さて無いものよ 月が漏るなら 雨も漏る
月が漏るとは、夜に月の光が板葺き屋根の隙間から射してくること。貧乏長屋のイメージだが、光が入ってくるならその隙間から雨も漏るだろう。月の光は良いこと、雨漏りは良くないこと。良いことはめったに二つない。河合は悪いことも二つないと言うが、悪いことは平気で二つ三つと重なるものである。
📖 『不思議な日本語 段駄羅』(木村功)。段駄羅は俳句や川柳と同じ五七五。上の五音をA、中の七音をB、下の五音をCとすれば、Bの七音は同じだが二つの異なる意味になって、「A-B1」と「B2-C」とつながるように駄洒落の掛詞を遊ぶ。一句引用する。
古都の旅(A)
大和路線か(B1)
山と自然が(B2)
そこかしこ(C)
奈良への旅人が「JR大和路線」を利用し、窓外に「山と自然」をそこかしこに眺める様子である。A、B、Cの記号を抜いてもう一作。
寝苦しい
不快な蚊なり
深い仲なり
花と蝶