「なかまちあいに呼ばれて」と音で聞いたら、中町愛さんに呼ばれたと思うか? ぼくは思わないが、思った人がいる。ある日、その人は初めて「中待合」を耳にした。
よく見聞きする待合は「待ち合う」から派生して、誰かと誰かが――または誰かが何かを――待つ場所を意味する。たとえば客が芸者さんを呼んで遊興する場とか。待ち合うという行為よりも待ち合うという場、すなわち駅や病院などの待合室を指すことが多い。
待合も待合室もどんな辞書にも収録されている。ところが、中待合は『新明解国語辞典』にも『広辞苑』にも載っていない。広辞苑をめくった時、「なかまち……」を見つけて、「あ、あるぞ」と早とちりしたが、「なか」ではなく「なが」で、長町裏と長町女腹切だった。いずれも浄瑠璃の話。
ある病院のホームページに中待合の説明を見つけた。「診察を受ける前に、リラックスしてもらうためのスペースであり、診察室の声が待合室に聞こえないための空間」という記述。中待合についてホームページで説明するのは、知らない人が多いからではないか。
定期的に検査してもらっている病院では、採血場に中待合がある。数十人が座れる広い待合室、そこから数メートル向こうに採血カウンターがあり、看護師が常時5人はいる。数メートルの距離の間に6人が座れる中待合がある。待合室では随時2、3人の番号が表示され、当該番号の人が中待合へ移る。待合と中待合、中待合と採血カウンターの間には仕切りも何もない。注射嫌いの人はリラックスしていないし、看護師の声は待合まで聞こえる。
中待合。実に不思議な場だ。受付を済ませ、指示された番号の診察室前に行くと、そこに中待合がある。名前を呼ばれて診察室に入ると、そこに椅子が何脚かあって、それもまた中待合空間なのである。そう、中待合のための中待合があったりする。
中待合は、待合と診察室をつなぐ緩衝地帯のようである。茶室の入口の蹲に似た、いきなりを嫌う日本独特の小空間なのではないか。