年賀状レビュー〈2023年版〉

新年の年賀状が刷り上がるこの時期、前年暮れに差し出した年賀状をレビューすることにしている。したためた時の思いと今の心境を照らし合わせて自己検証するために。あるいは、手前勝手な心変わりがあったなら自己批判するために。

ここで紹介する2023年版が創業以来35年続けてきた、文字まみれの年賀状スタイルの最後となった。年賀状をやめるか続けるかをしばし思案して、とりあえず来る2024年の新春のお慶びをこれまでと違うスタイルで申し上げることにした。それ以降のことはわからない。


一九八七年十二月一日創業、翌年に年賀状を差し出して以来、本状が数えて35葉目になります。過去の年賀状にしたためたメッセージを元に、その時々の象徴的な思いを綴り直してこれまでの35年を振り返ってみました。

一九八九年  出会いはいつも、偶然と必然を背中合わせにして喜怒哀楽の表情を見せる。ひとたび人と人が出会えば談が弾み、風がそよぎ始め、熱い渦を巻く。談は「言葉の炎」なり。

一九九〇年  知らぬがゆえに新しい発見に恵まれるという逆説。忘れ去ることにも意味がある。忘は「心、亡きがごとし」。手垢のついた知識を捨て、空想の中に心を解き放とう。

一九九一年  自ら動けばエネルギーが沸き起こる。動は「重い力」。変化を生み出す重力を受け止めたい。

一九九二年  先が見えない時代の渦中にあって、何かにつけ「?」の多い年になるらしい。不確実な「?」に好奇心の「?」で勝負を挑んでみよう。

一九九三年  こうと決めた自らの仕事を今一度振り返る。上げ底や見かけの飾りを捨て、「足を地に着ける味」、すなわち「地味」に回帰する。

一九九四年  「企画業、七年目の背伸び」。フィクションとノンフィクションというジレンマを克服するのが企画。

一九九五年  仕事と肩書を無数に組み合わせれば守備範囲はいくらでも広がる。敢えて二、三足の草鞋を履く。

一九九六年  人は人からもっとも多くを学び、人に励まされ、互いに触発し合う。今年、〈談論風発塾〉という人間交流実験に取り掛かる。

一九九七年  一見できそうもないことをやらねばならない時がある。できそうもないことをやり遂げるには身体を張る覚悟をしなければならない。

一九九八年  アイデアが二つ以上あって採択に迷ったら、是非や成否のことを考えずに、愉快なほうを選ぶ。愉快は情熱と継続力の源泉である。

一九九九年  「学力から力学へ」。学校時代の力の尺度は成績に表れる学力。社会に出ると、仕事力が学力よりも優勢になり、力学の勝負になる。

二〇〇〇  睨む、想う、狙う、考える、分ける、組む、離れる、絞る、明かす、書く、叩く、結ぶ……企画は動詞的であり、形容詞的ではない。

二〇〇一年  習慣は第二の天性なり。「アイデアを捻り出すのが癖でして」と言えるようになれば申し分ない。

二〇〇二年  世の中、注文や仕事は「ついで」に発生する。眼鏡のクリーニングのついでに新しい眼鏡を買い、一皿二百円の小鉢の注文ついでに一杯千円の大吟醸を二杯飲む。

二〇〇三年  一枚の紙、鉛筆、車内広告、ぼんやりの時間、雑談、接頭語、手紙、散策、頭など、知的発想作業のための非流行的小道具を見直す。

二〇〇四年  世間は読むほうがいい本を推奨してくれるが、読んではいけない本を教えてくれない。

二〇〇五年  コンセプト訴求失敗の原因は、平凡、焦点ボケ、時代錯誤、専門性、思い入れ、下手のいずれか。

二〇〇六年  アイデア、エスプリ、コンセプト、シナリオ、ダイアローグ、パラダイム、ファンタジーなどは訳さずに、カタカナで使うほうがわかりやすい。

二〇〇七年  独学向きの学問として、愉快学、乱学、不思議学、話題学、問学、隙間学、回遊学を推奨する。

二〇〇八年  時代が「どんだけぇ~」変わっても、流行など「そんなの関係ねぇ」。これからもよき仕事、高い技術を目指して「どげんかせんといかん」。

二〇〇九年  二元的に時代を見る。有無、方円、真偽、需給、上下、内外、清濁、伸縮、縦横というふうに。

二〇一〇年  誰もが「何か変」と感じているが、「変」の一部が自分にも起因していることに気づいていない。

二〇一一年  思惑があると遊びにならない。ふざけるだけの遊びもない。俗世間を気にせず三昧するのが遊び。

二〇一二年  弱い犬はかまびすしく吠えたて、三流芸人は芸を誇張する。

二〇一三年  「次の角を曲がれば、その向こうに新しい景色が見えるはず」という予感と希望を構想と呼ぶ。

二〇一四年  仕事には普段の知の習慣形成が反映される。無為だと奇跡は起こらない。都合のよい魔法もない。

二〇一五年  本の読み方は環境(人・時代・世界)の読み方の縮図である。

二〇一六年  腕を組んで考えても苦悶は増すだけ。素直に紙に書いてみる。これを「苦しい時の紙頼み」という。

二〇一七年  縁と機会に恵まれて今ここに到れたのは感慨深い。他人様に期待され、その期待に応える相応の努力を重ねる日々は濃密である。

二〇一八年  変わらぬテーマは「コンセプトとコミュニケーション」。見えざるものをことばとイメージに変える。

二〇一九年  「一つの正解を探せ」、「あらゆる要素を考えろ」、「ことば遊びをするな」、「深く掘り下げよ」。どれもあまり信用しないほうがいい。

二〇二〇年  「星に手を差し伸べても、一つだって首尾よく手に入れることなどできそうもない。だが、一握りの泥にまみれることもないだろう」。レオ・バーネットの至言に耳を傾けたい。

二〇二一年  旅がままならない今、本と読書との縁を結び直して、希望、快癒、愉快、幸福の修復を祈りたい。

二〇二二年  当たり前の穏やかな日々と小さな幸せを感受できる時間が早く取り戻せますように。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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